過去拍手
□バカップルなふたり2
1ページ/1ページ
俺のファムファタル。
…その言葉が嬉しくて。
今まで抑えていた気持ちが溢れ出して止まらない。
「冥加さん!」
場所…天音学園校門前。
待ち人が学園内から出てきたのを見ると、かなでは勢いよく呼び名の人物の腕に絡み付いた。
「っ!…小日向…何故、お前が此処に」
「冥加さんに会いに来たんです!」
引っ付いたまま冥加を見上げて告げてくるかなでに冥加の心臓は大きく跳ねるが、そこは冥加玲士。どのように動揺しようが表情には決して表さない。
「やあ、小日向さん。こんにちは」
「あ、天宮さん。こんにちは!」
そこに偶然ではなく、冥加と一緒に学園内から出てきたのに、かなでの視界に入る事が出来なかった天宮が声を掛ければ、やはり冥加に引っ付いたまま答えるかなで。
「…冥加に会いに来たと言っていたけど、何か用があったのかな?」
「いえ、たまには一緒に帰れないかと思って…待ってたんです」
「へえ…」と意味深な視線を向けてくる天宮に冥加の眉間の皺が深くなる。
「何故、俺が貴様と帰らねば…」
「良いじゃないか。じゃあ、僕も一緒で悪いけど帰ろうか」
冥加の言葉を遮り、天宮が答えると「何を勝手なことを…」と言う声が聞こえたが半ば強引にふたりに引っ張られて冥加は帰路につくこととなった。
「…………」
傍から見ると異様な光景。
あの天音の冥加が女の子と腕を組んで歩いている…ちらちらと此方の様子を窺うものまでもがいる。
「…歩きづらい。離れろ」
不機嫌な顔で離れろと言われれば先程まで笑顔だったのに、かなでは不安に顔を曇らせる。
「…嫌、ですか?」
かなでとしてみれば、冥加と和解が出来て…自分を運命の女性と呼んでくれた彼も自分とまた同じ気持ちでいてくれたのだと、思っていたし…だからこそ溢れ出す想いを抑えきれずに行動をしたのに、彼から発せられた言葉は「離れろ」と拒絶するかのような台詞。
思わず、掴んでいた袖をギュッと握ってしまうと…。
「…嫌だ、とは言っていないだろう」
ボソッとした呟きにかなでのみでなく天宮も思わず、冥加を凝視してしまう。
「だ、だいたい…貴様はこんな格好で歩きづらくないのか!…貸せ」
冥加は絡んだかなでの腕をほどき、代わりに自分の手とかなでの手とを繋ぎ合わせた。
「この方が歩きやすい」
そう言う冥加の耳は僅かに赤みを帯びていて、冥加の行動には驚いたかなでではあったが拒否されていた訳ではなかった事に笑顔を取り戻す。
(へえ…あの冥加がね。やはり着いてきて正解だったかな。面白いものが見れた)
「ねえ、冥加」
天宮はかなでに聞こえないように冥加に話し掛ける。
「…君と小日向さんって付き合っていたんだね。知らなかったよ」
多少、笑いを含んで言われれば冥加は訝しげに天宮を一瞥する。
「…何を、馬鹿なことを。何処をどう見たら、そう見えるんだ。くだらん事を言ってる暇があるなら歩け」
(…何処を、って…)
そう言って、ずんずんと先を歩いて行く冥加だがその歩幅はかなでに合わせている。
(僕には、そうとしか見えないよ)
だいたい、冥加が大人しく着いてくる時点で有り得ないだろ。
仲良く歩くふたりの背中を見ながら天宮はくすりと笑う。
(恋は人を変える…か。馬鹿にしたものではないね)
end