遙かなる時空の中で3

□天然バカップル
1ページ/1ページ



「………で、だ」

「俺は神子姫様達を誘った筈だが、どうしてあんた達まで付いてくるんだ?」

いや白龍までは予想をしてなかった訳じゃなかったが、どうして将臣に弁慶まで付いて来ているんだ

「どうして、って聞かれてもな…望美に誘われたからに決まってるだろ。する事もなかったしな」

「こういう場合は気を利かせるもんじゃないの?」

「ふふ、君に利かせる気なんて持ち合わせていませんよ。望美さんとデートだなんて、君一人にいい思いをさせる筈がないでしょ」

…だろうな
公園に新しくアイスクリームを販売する屋台が出たって情報を仕入れたから望美と朔ちゃんを誘って食べに行くつもりだったが男共まで付いてくるなんてね

「あ!朔、あれかな。ヒノエ君が言ってたアイスクリーム屋さん」

先頭を行っていた望美の声に正面を向くと、ピンク色の可愛らしい車の前に何人もの人が並んでいた

「そうみたいね。でも、結構並んでいるのね。すぐには無理みたいね」

「並んだら、すぐだよ。取り敢えず最後尾に並ぼう」

朔ちゃんの手を取って列の後ろに並んだ望美に俺等も続く

「はい、姫君達。待っている間に選んでいたらどうだい」

いつまでも細かい事に愚痴愚痴言ってるのなんて、男らしくないからね
おまけ共は気にしない事にしよう

気を取り直して、あらかじめ入手しておいた、この店のメニューを取り出す

「あ、メニュー?ありがとう」

俺からメニューを受け取ると朔ちゃんと「あれもいい。これもいい」と悩み始める
全種類をプレゼントしたい所だけど冷たいものの食べ過ぎは身体に悪いからね

「白龍はどれが食べてみたい?」

「私?私は、はちみつがいい」

「ええ!はちみつ?…えっと、あ!これそうかも。あったよ白龍!8番のハニーキッスだって、これでいい?」

「うん」

「じゃあ、私はこれにしようかしら」

白龍が決まった所で朔ちゃんも決まったらしくメニューの一ヶ所を指差す

「チョコチップか。それもいいな…どうしよう。いっぱいあって迷うな」

迷っている姫君も可愛いけど、そろそろ順番も回ってきそうだし、助け船を出そうか

「望…「望美さん。良ければ僕の選んだアイスを少し味見しませんか?そうすれば君は君が一番食べたいと思っているアイスを食べられて別の味も試せる。どうです?」

ちょっと、待ちなよ
人が言いたかった台詞を横から

「えっ!それって、か、か、…間接…」

「…間接…なんです?」

分かってるクセに笑顔で聞き返してるんじゃねえよ
望美、真っ赤になってるじゃねえか

あの顔は俺が出させる筈だったのに

「…………ふっ」

おいおい
弁慶のヤロー…勝ち誇ったように笑いやがった

「待てよ。望美、俺の分を分けてやるぜ」

こうまでされて、引ける筈がないよな

「ええっ、ヒノエ君も?い、いいよ!」

どうだ、あんたの時より可愛い反応じゃねえか

バチッと弁慶と俺の間で火花が散った気がした

「お前等、いい加減にしろよ。もう順番だぜ」

将臣に言われて気付くと俺たちの前の客が列から離れて行くところだった

「ああ!どうしよう、まだ決まってないのに」

「……ったく。望美はこれで、俺はこれ。…でいいんじゃないか?」

将臣は望美の前に身を乗り出すとメニューを二つ指した

「…ありがとう!将臣くん」

勝手に決められた事に怒り出すまでもなくとも文句の一つも付けるかと思ったが…なんだい、その笑顔は

そのまま店員に自分の注文、将臣の注文と朔ちゃん、白龍の注文を告げるから俺と弁慶もそれに注文を続ける


「良かったの?望美」

「…え、何が?」

列から離れて、近くに空いていた椅子にと座ると朔ちゃんが恐らく俺と弁慶も聞きたいと思っていた事を代弁してくれた

「その、将臣殿が決めたものだけれど、あなたはそのアイスクリームで良かったのかしら?」

「うん、これ食べたいと思ってたからいいんだよ」

美味しそうにアイスを舐める望美を見ながら、その隣で同じようにアイスを舐めてる将臣に小さく聞いてみる

「…なんで望美が食べたいものが分かったんだ?」

「そりゃ、長年幼馴染みなんてものをやってたら自然と分かるようになるさ」

「なるほど、今回は僕たちの負けですね。ヒノエ」

確かに、幼馴染みって言葉を使われちゃ仕方がないか
ま、今回だけは将臣に譲ってやるよ

「ほら」

「ありがとう。はい」

……いや

………ちょっと待て

…………何をしてるんだ

望美が俺の目の前で将臣と自分のアイスを交換している
しかも、嬉しそうに将臣が舐めていたアイスを口に付けている

これには流石の弁慶もアイスを落としそうになっていた

「ヒノエ、落ちてますよ」

足元を見たら、俺のアイスは無惨な事になっていた

いや、そんな事はこの際どうだっていい

「望美、何をしているんだい?」

「何って…将臣くんとアイスを交換しただけだよ?」

「望美さんは先程、僕達のアイスはいらない、と言ったのに…将臣くんのアイスは食べるんですね」

明らかに演技臭い愁嘆な表情で訴える弁慶にいつもなら吐き気を催すところだが今回は話が別だ
心からの応援を送ってやるぜ

「ええっ!違いますよ。いらないとか言ってませんし、お二人からなんて恥ずかしくて貰えないです」

「そう、ですか。将臣くんは良くて僕たちでは駄目なんですね」

「そうじゃなくて、ですね。将臣くんは幼馴染みだし、お二人とはやっぱり違いますよ、ね!将臣くん」

「は、俺に振るのか?まあ、そうなんじゃねえか。いつもの事だしな」

「へえ…じゃあ、譲ともやるのかい?」

ちょっと意地悪かもしれない質問をしてみると望美はキョトンと言う言葉がぴったりの表情をする

「なんで、譲くん?譲くんとはしないよ。私が交換してって言うと顔を真っ赤にしてダメです!って言うからした事はないよ」

悪いな、譲。鮮明に光景が浮かんだぜ

「おい、望美!」

「…え?」

「「「え」」」

思わず、弁慶と朔ちゃんと声がハモってしまった

話していたせいで、望美のアイスが溶け掛けて手にまで辿り着いていたらしい

そこまでなら三人の声はハモらなかっただろう

将臣のヤツ、望美の手を引き寄せて…垂れているアイスごと手を舐めやがった

「危ないだろ、気を付けろよな」

「あ、ごめん」

しかも、それをさも当然の如く受け入れている望美

…これは…

「完敗ですね」

俺と弁慶も人の事を言える訳じゃないが

そういう事は…二人きりの時にやってくれ






(兄さんも行くんだよな。まあ、頑張れよ)

家を出る前に譲が、そんな事を言っていた気がした


end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ