シリーズ
□三人で恋する〜副部長〜
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「ごめん、ひなちゃん。待たせてしまったかな?」
振り返った彼女はいつもの制服姿ではなく、ふわふわと可愛らしい装いをしていた。
思わず可愛いな〜と顔を綻ばせれば愛らしい微笑みを向けてくる。
「大丈夫ですよ。私も今、来たところですから」
今日は俺の可愛い可愛い彼女とのデート日。
待ち合わせ時間より20分も早くきたと言うのに、俺より早く到着していたひなちゃんを見ると彼女も楽しみにしてくれていたのか、と嬉しくなる。
…そう。
「榊く〜ん。遅いわ。女の子を待たせるなんて男のすることやないで」
こいつさえ居なければ。
どんなに純粋に喜べた事か。
「土岐じゃないか。どうしたんだ、こんな場所で。今日は俺とひなちゃんのデートの日なんだが」
「なに言うとんの?今日は俺と小日向ちゃんのデートの日や。それにオマケで榊くんがくっついてくるのやろ?…なんなら、帰ってくれてもええよ」
本当に口の減らない奴だと思っていれば、俺の手に触れる柔らかな感触。
見てみれば、ひなちゃんが俺と土岐の手を片方ずつ取ってにこりと微笑む。
「喧嘩はダメですよ。今日は三人でデートをするんですから!楽しみましょう」
そう言って、手を引っ張られたら俺も土岐も逆らえる筈もなくひなちゃんと手を繋ぎ直して隣に並ぶ。
俺はどうしても、彼女には弱いらしい。
でなければ、こんな関係を良しとする筈がない。たった一つのあの厳しい条件すらも。
(…お試し期間か)
恋愛慣れしてない筈の彼女が出した提案。
この関係が始まったのは土岐がひなちゃんに告白している現場を目撃してしまったから。
俺の目から見ても二人は普段から親しくしているように見えたし、ひなちゃんを捕られたくないと焦っていたのかもしれない。
思わず、飛び出して自分も勢いに乗せて告白をするなんて。
土岐の言葉を借りる訳じゃないが、あの時ばかりは俺も若いな…と思った。
びっくりしてキョトンとしているひなちゃんが少しの間の後に発した答えは。
――わからない――
俺と土岐、どちらが好きかわからない。
二人とも好きだが、これが恋愛感情なのか…そうでないのかがわからないと彼女は言った。
真面目な彼女が出した答えに消化不良ではあったが仕方ないと望みがゼロではない事にならば待てば良いと思ったところで、口を開いたひなちゃんはとんでもない事を言い出した。
『お試しでお二人とお付き合いしても良いですか?』
驚いたのは俺だけではないだろう。土岐も珍しく目を見開いていた。
ひなちゃんが言うには
今までより近くで付き合ったなら、この好きの意味がわかるかもしれない。
我が儘かもしれないけど…ダメですか?と真っ直ぐに見詰められたら戸惑いの方が大きかった俺だが。
『ひなちゃんが良いなら俺は構わないよ』
と答えていた。
土岐も異論がなかったのか「…ええよ」と頷いていて。
それから続くのが、変わった三人の関係。
この三人デートもひなちゃんの言葉から始まるもので。
『もう一つだけ、我が儘を言ってごめんなさい。お願いがあるんです。』
不公平な事はしたくないから公平に。俺とした事は土岐にも土岐にした事は俺とも、それがひなちゃんがこの関係を始める上で出した条件。
恐らく、彼女じゃなかったらこんな条件や関係を呑む筈もなかっただろう。
「今日は何処か行きたい場所とかあるん?」
「はい!恋愛映画なんですけど、ずっと気になっていて。…男の人って恋愛ものの映画とかってやっぱり好きじゃないですか?」
「…そんな事はないよ。ひなちゃんと一緒なら何だって楽しい」
ウインクをして、そう言えば、ひなちゃんは頬を赤らめながら「ありがとうございます」と嬉しそうに笑う。
どちらに転ぶか分からない結末を思えば、この関係は拷問かもしれないけど彼女の隣は居心地が良いから…今はこの関係を続けていたいとも思うんだ。