シリーズ

□三人で恋する〜副部長2〜
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森の広場の木陰に寝転んどると柔らかな風が頬を掠める。


上を見上げて微笑めば、愛しい子の姿。


「気持ち良いですね」


「…そやね」


なんて穏やかな時間なんだろうか。
いっそ、このまま時が止まってしまってもええな。


「なあ、小日向ちゃん」


「…はい?」


「キス、してくれん?」


「…………」


ぽかん、として
ほんま可愛ええな。


そっと頬に掛かる髪の毛を指で払いながら、その頬を撫でると微かに紅く染まっていく。


誰にも代えられん
…俺の愛しい子。


…けど…


「土岐、いい加減にしないか?」


真横から、ひきつった榊くんの声。


「榊くん、まだ居ったん?ほんま気が利かんなあ」


彼女はとんだ小悪魔ちゃんやった。同時に二人の男と付き合おうなんて。
(お試し期間らしいけどな)


「利かなくて結構だ。だいたい、俺とひなちゃんの間に割って入ってきたのはお前の方じゃないか」


割って入った…なんて、聞こえが悪いわ。
広場をぶらぶら歩いとったら、そこに愛しの彼女が居ったから膝枕をねだっただけやないの。


「じゃあ、交換ですね」


…え?と思ってる内に小日向ちゃんは自分の膝をぽんぽんと叩いて榊くんを見る。


「…榊くんにもするん?」


「勿論です。公平に、ですからね!」


ふわりと愛らしい笑顔を見せた彼女とは反対に俺の気持ちは沈んでいく。


「どうぞ、大地先輩」


「…っ、いや…嬉しいんだけど、どちらかと言えば俺はされるよりしたいかな」


「…え?それは…私が先輩の膝に、ってことですか?」


「そ。どう?」


「…ど、どうって、そんなの恥ずかしいです!それにそれじゃ公平とは違うと思いますからっ!先輩が私の膝を枕にして下さい」



俺の隣で繰り広げられる「私の」「俺の」と言う痴話喧嘩まがいの会話にどんどんと自分が不機嫌になっていくのがわかる。


(…榊くんはしてほしくないって言っとるんやから、無理強いせんでも…ええやん)


榊くんが小日向ちゃんを膝枕するって言うのも気に食わんけど…。






…なんで、この子は俺だけのもんやないんやろ。


自分が好いとる分だけ
自分も彼女に好かれたい


それは当たり前の感覚だと思うんよ。
誰よりも俺だけを特別に思ってほしい。


キスだってして
こんな近くにおるのに、まだ、こんな遠いなんて…とんだ拷問や。


「……さ、ん?蓬生さん?どうかしたんですか?」


ぼーっと、しとったら小日向ちゃんが心配そうな顔で俺を覗き込んできた。


「泣きそうな、顔をしてました…。体調悪くなっちゃいました?」


ああ、表情に出てたか…
ほんま、俺はどうしたんやろうな。小日向ちゃんを前にすると飄々とした態度を保ってられん。


あんたとの距離が切なくて苦しい、なんて…どう伝えたらええんや。


「…何もないよ。心配してくれたん?嬉しいなあ。小日向ちゃんが榊くんばかり構うから、ちょっと拗ねてみただけや」


人差し指を唇に当てて、からかうように言うてみせたら顔を真っ赤にして、あわあわしとる小日向ちゃんがほんま可愛くてしゃあない。


それと同時に、また切なさが込み上げてくる。
お試し期間が過ぎて、小日向ちゃんが俺の元を離れて行ったら俺はもう生きていられんかもしれん。


小日向ちゃん。
どうしたら、あんたは俺を選んでくれるん?
榊くんやなくて、俺だけのもんになってくれるんや?




なあ、あんたの心に俺が入り込む隙間はほんまにあるんか…







 
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