シリーズ

□三人で恋する〜副部長2〜
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ミーン…ミーン…と
蝉の暑さを増す声が耳をつく。


「…ほんま、今日も暑うて敵わんわ」


小日向ちゃんも朝から居らへんし。暇やな〜。
かと言って、こんな暑さの中、外に出掛けたいなんて思える筈もないから、こうやって菩提樹寮のベンチで寝転んどるのやけど。


ほんま、何処に行ってしまったんやろ。小日向ちゃん。
朝から会うてへんから調子も出んわ。帰ってきたら構ってもらわんとな。


「…そ、いや…榊くんも来ておらんが、まさか俺を置いて、デートなんて事はあらへんよね…」


胸がギュッて絞まる。
大丈夫や…榊くんが抜け駆けしようとしても小日向ちゃんは、そんな事許さんよ。


(…独りは、慣れとった筈やのに、あの子が居らんだけで…こんなにも寂しくて不安やなんて)


…小日向ちゃん。
早よう…帰ってきてや。
俺を独りにせんといて…。












「……沢山、買っちゃったね」


「…ああ、小日向のお陰で助かった」


…?声が、聞こえる?
これは、小日向ちゃんと星奏の部長さん?


うっすらと目を開けると太陽の位置がさっきと違ってた。
…寝てしもうたんか。


「ううん!探してた楽譜見付かって良かったね」


「ああ。今日は朝から付き合わせてすまなかったな」


…なんや、部長さんと出掛けてたんか。
寝起きの頭を軽く揺さぶって、ゆっくりと声が聞こえた玄関口の方へ歩いていく。








「…ありがとう」


玄関口に辿り着くと、俺等が見た事もないような甘い笑顔を小日向ちゃんに向けてる部長さんの姿。


当の小日向ちゃんは、と言えば…真っ赤に頬を染めてぶんぶんと首を振っとる。


ズキ…
…ズキ


「じゃあ、俺は楽譜を部に置いてくる」


「う、うん…。あ、私も付き合おうか?」


「いや、これくらいなら大丈夫だ。お前も練習があるだろう。俺の用事にばかり付き合わせる訳には行かない。…それでは行ってくるよ」


「あ、うん。行ってらっしゃい」


寮から出ていく如月くんを見送る小日向ちゃん。


ずっと見つめとって、
如月くんの姿が見えなくなったら
はあ…と切なげに眉を寄せて息を吐く。


ズキ…
…ズキ
ズキ…


(…なんや、そういう事かいな)


俺でも、榊くんでもなかったんや。小日向ちゃんの心に住んどったのは…。


俺等の気持ちをしとって弄んでた訳や…。ほんまの小悪魔ちゃんやった訳や。


後ろに下がろうとしたら、ザリっという足音を立ててしもうた。


それに気付いた小日向ちゃんと俺の視線が絡み合う。


「蓬生さん!」


俺の大好きやった笑顔で
俺の大好きやった声で
俺の名前を呼ぶ大好きやった子。


「…蓬生さ、ん?」


俺は今、どんな顔をして彼女を見とるん?
わからん。頭がごちゃごちゃして、心がぐちゃぐちゃになっとってわからん。


「…なんで、笑っとるん?」


自分でもビックリした。
予想以上に冷めた声が自分の口をついて出た事に。


「…っ!?」


「小日向ちゃん。あんた、俺と榊くんを弄んでたんやろ?」


「っ、な、なに言って…」


「他に好きな人が居るのに、俺等と恋人ごっこなんかして…楽しかった?」


「…ほう、せ…」


「何がお試し期間や。馬鹿馬鹿し…あんたの心は初めから俺等に傾く事はなかったんやないの」


「……っつ!」


ああ…違う。
こんな事を言って彼女を傷付けたい訳やない。
違うんよ。
あんたを泣かせたい訳やないんよ。


「…なに、泣いとるん?泣きたいのは、こっちや…」


ズキ…
…ズキ
ズキ…
…ズキ


「…違う…。違うんよ。そんな事…言いたい訳やない。あんたを泣かせたい訳やない」


涙が溢れてくる。
何年ぶりや?人に涙を見せるなんて。


「…小日向ちゃ…かなで」


「…蓬生、さ…」


「俺を、独りにせんといて?あんたが居らんとダメなんや。もう…かなでが居らん世界なんて想像もつかん。俺を捨てないで」


嫌や。嫌や。
まくし立てるように言葉を紡いで、離れないように離さないようにギュッとかなでを抱き締めて。


「…榊くんでも、如月くんでもなくて俺を選んで?あんたに捨てられたら俺は…もう死んでしまう」


どうしたら、あんたは俺の側にいてくれるん?
どうしたら、あんたは俺を選んでくれるん?






場所が菩提樹寮の玄関口で、いつ誰が来るかも分からんとか気にする余裕もなくて。


俺は
みっともなく涙を流して、
みっともなく、かなでにすがり付いて。


かなでが今、どんな表情をしとるかも俺には想像も出来んかった。







To be continued
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