NOVEL(銀)
□Love letter(山崎視点)
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【Love letter(山崎視点)】
ブロロロッ、と原付バイクが遠ざかっていく音が聞こえた。
「……、」
のそのそ…、と温かいこたつから手を出して、仕方なく、手の届く範囲に置いていた分厚い綿の入ったどてらを羽織った。
突っ掛けを履いて外へ出る。
ガコン、とボロボロの郵便受けを開けて中を覗いたら案の定、郵便物が届いていた。
もちろんその郵便物は普通のハガキとかではなく、一年の初めに届く年賀ハガキ。
十枚にも満たない数の年賀状なのに、わざわざ輪ゴムで纏めるなんて律義だなァ、と思いながら、その場で輪ゴムを外す。
高校を卒業してしばらく経っているけど、それでも毎年、高校の頃の友人から年賀状が届く。
近年は携帯の普及で、年賀状を書く人が減っているらしい。かく言う山崎の友人も時間がなくてメールで済ませる友人も多いから、あながち間違ってないのだろう。
けれどやっぱり、お決まりの定型文の後に、『暇な日に遊ぼうぜ』とか『一緒に飯食いに行こうな!』とかメールで簡単に送れるような内容でも、手書きで書かれてあるのとないのとでは感情の伝わり方が違う気がするのだ。
あと、何やかんや言っても卒業してしばらく経ってても自分のことを忘れないでくれているのかと思うと純粋に嬉しい。
「…あれ、」
ずっと外にいたら風邪を引くと思って、残りの年賀状はこたつの中で読もうと家の中へ戻ろうとした時だ。
差出人を見て、意外な人達からの年賀状に足を止めた。
「沖田さん、今年は出せないって言ってたのに」
年賀状の左端の差出人には高校二年の時から恒例になっている、土方十四郎と綺麗に書かれた名前の横に、丸文字気味の字で沖田総悟の名前があった。
家から通うのが遠いからと言って、高校二年の半ばくらいから土方のアパートに転がり込むように住み着いていた沖田だけど、短大を卒業してからなかなか就職先が見つからず、ずっと土方のアパートに住み着いて借りを作るのは嫌だから実家に戻る、だから年賀状買いに行くのも書くのも面倒だから出さないと、この間、一緒に飲んだ時に言っていたのに。
結局、あれからも土方のアパートに住み続けているようだ。
「(あの後、就職先でも見つかったのかな)」
高校二年から毎年、土方が出す一枚の年賀状に沖田の名前があったから、今年から土方だけの年賀状になるのかと少し寂しく思っていたのだ。
やっぱり土方さんと沖田さんはセットでいる方がしっくり来るなァ…と思いながら、年賀状を裏返す。
するとそこにはいつも通り、土方さんの字で新年の挨拶、今年の干支である巳は『沖田総悟画伯』で分担されていて、「変わらないなァ…」と山崎の口から自然に言葉がこぼれていた。
変わらない二人の様子を思い浮かべながら、土方の字を目で追っていると、ふと、年賀状の一番下の方に沖田の字で何か書いてあることに気が付いた。
沖田が自分にメッセージを書くのも珍しいし、性格と同じでふてぶてしい沖田がこんな小さな字で書くことも珍しい。
じぃーっ、としばらくの間、年賀状と睨み合いを続けていた山崎だが、ふっ…とその表情を緩めた。
「お二人ともおめでとうございます」
就職先も決まったみたいなものですね沖田さんは嫌がるでしょうけど、と胸の内でひっそりと呟きながら、山崎は温かい家の中へ戻って行った。
P.S.土方さんと付き合い始めました。
【終】