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□呪縛で呪いを解く
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殺される。よりによって愛している人に。違う、もっともっと大切に愛し合っている人に。足が痺れてきて、さっきまでは感じ取れていたはずの流血感も、すでにわからない。
目が見えるのが救いだった。雲が動いて、自分が生きていることがわかる。
風で雑草が揺れて、時が止まっていないことがわかる。
千切れそうな足を引きずって、落ちそうな腕を押さえてそれでも生きようとする私をあいつなら見苦しいと言うに違いない。でも、私は生きたい。見苦しくても潔くなくても構わない。ただ、生きたい。死にたくない。
「…っ」
私の後ろは血だらけだからばれることは間違いない。それなら、できるだけもっと遠くへ、生きる為に、もっとずっと遠くへ。愛する人から離れる為に。
次に、私が千種と愛の言葉を交わせる時は同時に私が死ぬ時になる。なんて皮肉。
一歩進んだつもりでもそれは蝸牛の一動にも満たない。息ばかりきれて、きっともうすぐ駄目になる。今から泣いて謝ったら、みっともなくとも骸様は許してくださるだろうか。それともやっぱり私を殺すのだろうか。勿論謝る気などさらさらない。
「…ぁ」
前に出ることの出来なかった足ともう片方の足が絡まって私は前方にバランスを崩した。もう、駄目。力入らない…。最悪。
「…!」
「探したよ」
倒れたと思った体は千種に支えられて、そのまま壁に叩きつけられた。
「…っあんたが銃なんて持ってるの始めて見た」
「持ちたくて持ってない」
私の銃。私が散々人の命を奪ってきた銃。大嫌いなマフィアの武器。どこで落としたんだろう。さっきまで手に持っていたはずなのに。あ、指動かないじゃん。感覚では持ってたつもりでもとっくに銃は私の手から消えてたわけね。
壁に叩きつけられたのは痛かったな。一応女の子なんだけど。
「…ひどい扱い方するのね」
「裏切り者だから」
「裏切りねぇ…」
「抜けたいなんて言ったらこうなるってわかってただろ」
「そうね、でもこれはチャンスかもね。千種が、愛する私を殺せるかはわからない」
「別に、殺せる」
淡々とはっきり言い放った千種を見つめるといつもどおりのつまらなそうな目線が返ってきた。本気、か。結構愛してたんだけどなぁ…。
「何で、抜けるなんて言ったと思う?」
「…知りたくも無い」
「そう言わないでよ、最後でしょ」
今度こそ変わるかと思った千種の表情はやっぱり凍りついたままで感情が読み取れなかった。もしかしたら、無いのかもしれない。感情も、私への愛も。
骸様も千種も犬も私が銃を使うのを嫌った。マフィアの道具なんて本当は私も大嫌いだった。それでも私が銃を使い続けているのは、銃を向けられた相手の恐怖や後悔やそんなのが入り混じった心境を今までは向けていた側であろう奴らに思い知らせる為だった。マフィアに苦しめられた私はそのことを同じ方法で直接味わわせることで何らかの爽快感、達成感を得ていた。
その日だっていつも通りのマフィアのアジト潰しだった。何も考えずただ壊すだけ。相手の左胸、もしくは眉間に狙いを定めて引き金を引くだけ。なんとも単純で無感情な行為。的当てとなんら変わらない。命乞いする奴らを愚かだと罵った。その日、私は一組の夫婦の命を奪った。夫が妻を庇って「俺を殺してもいい、だがこいつは!」と言っていたのを無視していつも通り、バーン!奥さんも一緒に死にたいよね?バーン!抱き合うように崩れ落ちた二つの体を二つ同時に打ち抜けるように真上から、バーン!弾はどこまで貫通したんだろう。気になって重なっている死体を剥がそうとしたの。
「でも、全力を抜いた人間て信じられないくらい重いの。知ってた?」
「…何が言いたいのかわからない」
「あーごめん、まだ続くの、あとちょっと聞いて」
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