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□限りなく恋に似ている
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確か、今日は予想気温が今年一番高いんだった。どうりで暑いわけだ。あまりの暑さに融けそうだ。いや、もう融けているのかもしれない。

「…!…っ、…ぁ」

「声出してよ、つまらないな」

「…っ、…は」

「聞こえたとしても入って来ないよ…ああ、それとも聞かれたら困る相手がいるの?」

誰に聞かれても困るに決まっているじゃないかと極めて当たり前のことを口には出さずに考える。暑い。熱い。口から漏らすのは相変わらず耐えるような嬌声で、こんな時間にこの保健室などというありえない場所でそれはそれはアブノーマルな性交に励む私たち。高校生にもなってどうしてこんな頭の可笑しいことをしなきゃいけないんだ。安っぽいエロビデオのようなこの風景。分類するなら素人の強姦もの。プラス緊縛プラスSM。昼休みに友達と談笑中にいきなり現れたと思ったら強い力で腕を引かれて保健室に連れ込まれてしまった。何やってんの此処の保健医。あんたの所為でこんなことになってんだからね。鍵の閉まる音に本能が必死に警鐘を鳴らすも手遅れで、ベッドに押し倒されて抵抗する間も無く包帯でぎちぎちにベッドにくくりつけられた。勿論、必死の説得は全部無視。そんな状態にしておいて憎々し気な目で私を睨む雲雀恭弥。そして瞬きを一度した後、楽しそうに目を光らせて笑った。そして私は思った。ああ、私が告白した相手はかなりやばい奴だったのだ、と。為す術もないままネクタイを解かれて、お約束とばかりに引き裂かれたブラウス。ボタンを拾うのが大変そうだ。私の反応が思ったよりつまらなかったのか、つまらなそうに私のネクタイを手にそれでそのまま私の目を覆って頭の後ろで結んだ。他人事のように細かく整理してはいるけど実際ぐちゃぐちゃで擦り切れそうになっている私の生殖器官からの快感とも呼ばない痛みが脳を焼き切ろうとしていて、何かを手放そうとしていた。それが理性なのか、意識なのかは失うまではわからない。だからこそ躍起になって捕まえておくのだ。あの獣の餌になんてされてみろ、私なんて一口でぺろりだ。前菜にもなりやしない。視界を奪われる前のあの卑猥で鋭いあの笑顔、あれが雲雀だ。思い出せ、流されるな。荒れ狂うこの波に飲み込まれれば終わりだ。

「ワオ、最中に考え事?随分余裕だね」

「…ぁっ…ひ、ばり…っ…」

「…やめないよ」

風紀はどうした風紀は。みんなが使う保健室でセックスは風紀的にアリなわけか。さっきから目を覆い結ばれたネクタイが湿っていて気持ち悪い。涙とか汗とかできっとネクタイの色が濃く染まっているに違いない。それはそれで扇情的ではあるんだけど、私はあんたの顔が見たい。私がさっきから十数回いかされている異常状態の中一度も果てないあんたの顔が見たい。一番熱いはずなのに生温いと形容したくなる結合部に縋り付いて奥で感じるのが自分だけならそれでもいい、顔が見たい。犯されてたって構わない、ただ、その顔が見たい。

「…雲雀、ほどい、てっ…、目…!、…っ」

「僕に命令するなんて、咬み殺されたいの?」

「ちが、っ…!…ぁ、ゃっ、!」

「君を見ているとイライラする」

イライラする?私を見て?そしてここで私の中で一つの推論が成立した。この雲雀恭弥という男は、見目麗しく、頭もよく、運動神経(と言うより殺戮スキル)もずば抜けていい。つまり完璧だ。人間性という一部を除いて。彼は人気者になれる理由は持ち合わせているが、それを好まない。故に孤独を愛し、全てを遠ざけてきた。この外見上、黙っていれば美男子ということだけでもかなりの人気はあったのだろうけど。それでも、この凶暴さだ。近づいてくる女子なんていた筈が無い。いたとしてももう塵になってしまっているかもしれない。まあ、わからないけど、大事なのはここからだ。雲雀恭弥はおそらく面と向かって告白などされたことがなかったに違いない。きっとそれと暑さにやられておかしくなっているに違いない。嫉妬という感情に戸惑っているのだ。うん、そうだ。ていうかそれがいい。面白いし、私が嬉しい。可哀想に雲雀恭弥も残念ながら愚かなる人間に過ぎないのだ。なんて、愛しいことだろう。






「…っ、あはは、ぁ、っあ」

「なに笑ってるの」


笑うさ、笑うに決まってるじゃない。此処で笑わないでいつ笑うの。もし私と同じ状況で笑わない人間がいたら指名手配して殺してやる。今、殺すという極端な方法を思いついたのは、笑わない人間を世界から除外するためではなくて、それより私と同じ状況に遭うことになる人間が憎いだけ。共感して欲しいとは思うけど、誰にも経験なんてさせやしない。させて堪るか。標的はずっとこれから私のままで、私オンリーでいい。ぐちゃぐちゃになってとろとろに融けている感覚はあるのにずっと別個体のままの部分が、私でない人間の意識的に何度もぶつけられて、擦れて気持ちいいだけじゃない妙な感覚に陥る。同調しているのかもしれない。物理的にではなくても、私たちはきっと今、融け合っている。ははは、愉快だ。目の前にいるのは最強最悪最凶傍若無人天上天下唯我独尊男の雲雀恭弥なのに。私の塞がれた視界に映るはずのない虚像は例えるなら、木に登って怖くておりられなくなった子供のようだ。

「…ぁっ…ひば、り…っ…びびってんじゃ…ねぇよ、ばぁか…」

何が、とか、何を、とか。そんな質問を返さないってことは自覚してるくせに。ははは、と私はまた笑った。雲雀がびびっている。私に愛されることに。私を愛してしまうことに。怖がって動けずにいる。そんなの誰だって怖い?そんなの知ってる。私だって怖かった。今だって怖い。だけど私を犯しているこの男は誰でもない雲雀恭弥だ。大事なのは全てそこだ。雲雀じゃなきゃ意味が無い。愚かでも雲雀だから愛しいのだ。雲雀だから犯されてるのに気持ちいいんだ。融けたいんだ。

そしてがちゃがちゃと金属音を立てて首に少し太い何かが巻かれた。巻かれたというには随分息苦しいけれど。おそらくこれは、ベルトなのだろう。そんなにあらゆるものを私に巻きつけてボンレスハムにでもするつもりか。ぎちぎちと絞まっていくベルトで呼吸器が細められていく。うわ、これは、思ってたより、苦し、

「……死ねばいいのに」

「…ぅ…っ、あ!」

天にも昇るような気持ちのまま本当に昇天させられた私。気絶した私の口の端から重力に従って伝い落ちていく唾液を舌ですくった雲雀が、私にキスしたその瞬間に果てたことは知らないまま。


いやいや、あたしが死ぬならお前が死ね。違うわ、お前も死ね。


end

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