─未知なる閲覧室─

□『心』の傷痕
1ページ/22ページ


部活も終わり、学校の帰り道。
真っ赤な夕焼けの中を、俺はゆっくりと歩く。

そして、途中の道から商店街に入り、近道をしようと真っ直ぐ歩いていた。


すると。
おもちゃ屋さんを過ぎようとすると、1人の女の子が窓越しにあるぬいぐるみを眺めながら言っている。


「ねぇねぇ、あのくまさん可愛いー!」


茶色く、モコモコとした体。
愛くるしい瞳。

それは可愛いし、勿論子どもなら欲しいと言ってくるだろう。



「……!」


ズキッ……!


「……ち」


……またか。
左傷が痛む。



「どうしたの?春香」

「ママ、春香ね、お誕生日プレゼントあのくまさん欲しいー!」


女の子は、傍に来たお母さんに誕生日プレゼントをねだっている。
お母さんは、そんな女の子をにこやかに見つめて。


「分かった分かった、それが良いのね?とりあえず、今日は帰ろう。パパが帰って来るよ」

「はーい!」


頭を撫で、優しく微笑むお母さん。
買ってくれると分かった女の子は、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。



「……」



そんな二人の姿を見た後、すぐに俺は目の前のぬいぐるみに目をやる。


──ピキッ!


「!!」



ぬいぐるみが目に入った途端に、ふと、よみがえる

あの日の出来事。



『俺がかばう!お前はしゃがんでろ!!』



一気に、それが脳内を駆け巡った。



『──翔……っ、嫌だあぁあぁぁあ!!!』



「……!」


ハッと気付き、目を醒まそうとパンパンと頬を両手で叩く。



「……あーあ」


どうにかして欲しいよ、こんなのもう思い出したくないのに。



「……なんでかなぁ」



笑いながら左手で、ズキリと痛んだ大きな傷痕をなぞる。



「……帰んねぇと。翼が待ってんな」


少し考えた後、俺はまたいつもの様に走って帰った。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ