いなずま


□旅立ちの日に
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綱海、呼べば振り向く、
君は今日で思い出になってしまうのでしょう。

海原に死んでゆく今日を音村は噛み締めた。
飛び込み台のような岩肌は
綱海の大事な場所。

「さくら綺麗だったね」

胸に飾られた赤い造花と
プリントの味気ない文字

大海原中3年、綱海条介
という肩書の最後の日。
綱海は今日卒業した。

「おめでとう綱海」

サンキュー、目線は夕日
のまま綱海が答えた。
東京やら世界やらにしば
らく行っていた綱海は、
だいぶ方言や訛りが抜けている。
ちょっと前までは感情が
高ぶれば、
何を言っているか外の人
間にはまったく伝わらな
かっただろうに、
今では綺麗な標準語で
綱海は怒る、怒鳴る。
ああでもそんなこと、
どうだって構いやしなか
った。綱海はもう大海原
には帰らない、帰れない
それに比べたらそんなち
っぽけな寂しさなんて。


ヘッドフォンを耳にあてる、
アイルランドの少女が歌った。
夕暮れには切な過ぎて、
音村は海に背中を向ける

ろくに舗装のされていな
い砂浜沿いの畦道を、
二人乗りの自転車が騒が
しく通って行くのが見えた。
仲の良い二人を音村はよく知っている、
あの二人だって、いつか
は綱海のように大海原を
去って、別々の進路を
選ぶんだろう。
もちろん音村も。

「…綱海が高校に入れるんだもの、渡具知と東江も入れそうだよね。」

「失礼だなぁ!でもあいつら、高校行くのか?行く気あんのか?」

「綱海に言われたかないと思うよ?」

軽口を言い合う当たり前
だった今日が死んで行く

一緒に登校することも、
下校することも、
お弁当を食べることも、
部活に行くことも、
同じ制服を着ることも、
ああないのでしょう。

「綱海先輩ーご卒業ありがとうございまーす!!」

「絶対遊びに来ないでくださーい!!」

進まない自転車を浜辺に
放って渡具知と東江がこ
ちらに駆けて来た。
ふざけて告げられたひど
い言葉に、綱海は綺麗な
標準語で怒って、
笑いながら音村の横を
過ぎて行く。

「これからも、ずっとよろしくな音村」

「、つなみ」

振り返る、もう綱海は
背中で、二人のきちんと
セットされた髪をぐちゃ
ぐちゃにしていた。

(ずっと、なんて。いつかは綱海も東江も渡具知もおれも皆、みんなね)

ヘッドフォンを外した。
今日死んでゆくひとつの
笑い声とみっつの姿を、
夕日がせめてもの慰めに
、と赤く照らす。

卒業証書、綱海条介殿、
こっそりと波間に放ってしまったら何か変わるのでしょうか。



旅立ちの日に





つなみには、東京とかの
サッカー有名な高校から
スポ選とかきたらいい。

でも断って、沖縄の普通
な高校にいっていただき
たい。

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