枯れた究極〜es jyuva teroa

□1.虚飾の死神
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今思えば我々は足踏みするべきではなかった
多少禁忌を犯してでも踏み出すべきだったのだ
さすれば再生の獣が闇の救世主の手で操られ
多くの悲しみを生み出す事もなかったのに
        『回顧録』より






 あの御方は来なかったな」髪をかき揚げながらミノスは言った。「もう何期目だ?」

「7だな」
すかさずアイアコスが答える。

「会いに行ったか?」
「門前払いだ」
「だろうな」

 ミノスは目を鋭くした。

「不穏なことでもあって心を病んだか、不吉なことでも企んでいるか、だろうな。あの御方が何を思っているか、私たちには分からないが…」少し息を深く吐いてミノスは続ける。「―――DMと、何か絡んでいたりしてな」

「大いにあり得る可能性ではあるが、何処にダークメサイアと関わる利益が?」

 アイアコスの言葉に、ミノスは答える。

「奴等のやっていることと、あの御方の経緯を考えると―――」そこで言葉が途切れた。頭を抑える。「いや、そんな見え透いた事するほどボケてない……よな?」

 何とも言えない澱んだ空気が流れた。アイアコスの顔にも困惑の成分が含まれる。彼は頭を抱え、一度大きく溜め息する。

「………相手が相手だ。まだ暫くは様子を見るしかない。起きてしまっていることは仕方ない。局長にも私から示唆はしてみるが、期待はするな」

「あいよ。だが、副局長にはしないでくれるか?」

「何故だ?」

 頭を押さえていた手を収め、ミノスは遠くを見ているかのように前を向いた。静かに口を開く。

「きな臭い」
「勘か」

 間髪入れられた言葉はミノスの本音を貫いたらしい。彼女は渋い顔をしていた。

「………まぁ」

 返答はしたものの、視線はアイアコスから逸れている。彼はその有様に息を吐いたが、同時に様々な事実を鑑みて判断を下した。

「…お前がそう言うならそうなのだろう」
「信じるのか?」
「不愉快なことに、お前のは無下にできないからな」
「不愉快なんかい」

 ミノスはひきつった笑みを浮かべている。


 本来、裁判官にとって勘というものほど過信してはいけないものはない。それはただの妄想の産物であり、勘で推測されることは勘が働いた者の思考内のみに限定される。真実とかけはなれている場合もあるため、裁判官には不必要なものだ。たとえ思い付いても、胸の内にしまいこむ。

 だが、時たまに勘という不信的な領域を脱した、未来予知に近いことを言うものもいる。

 ミノスも、その一人だ。

 彼女の場合、高確率で危機から脱する術を示唆する“能力”に近いものがある。それは冥界管理局の誰もが認めていた。

 そう、誰もが


「…アイアコスは何か考えられる事象、思い付かないか?」

 ふむ、とアイアコス。

「天王様に心当たりを訪ねてみよう。何かあるかもしれん」

「会うと事が大きくなりすぎないか?」

「あの件のついでだ。珍しく興味を持たれたようでな、例の会議に出席なさる」

 それを聞いてミノスの目が見開く。

「信じられなさそうだな」
「珍しいこともある、と思っただけ」

 天王とは冥界と対を成す世界、天界を管理する天宮の宮長の事である。冥界管理局では管理局の長である冥王の弟への敬意を示してそう呼ばれる。

  冥界管理局は現行の世界が始まる遥か前より死者の魂を管理してきた。善良な魂を天界へ送り、贖罪の余地があるものを煉極へ、そして悪しき魂を地獄へ送り込み二度と世界に現れぬようにする……魂を仕分け、悪しき魂を管理するのが冥界管理局の務めだ。天界に魂を送る都合上、天界とは切っても切れぬ仲だ。

 しかし、根本的に違う部分が一つだけある。冥界管理局は魂の管理という重大な役割を担う故に、元々ある組織の直轄組織として機能していた。その組織の名は全銀河連合、通称全銀連という。三次元全ての健全を保ち管理する組織だ。冥界管理局は全銀連の管轄内の組織である。そこが天宮と決定的に違う部分だ。

 現行の世界が始まる前…三次元世界が崩壊するという大惨事、第三次創世大戦が始まる前までは。

 第三次創世大戦の時に全銀連は壊滅したために冥界管理局は独立せざるを得ない状況に陥ったのだ。現行の世界が生まれた後も全銀連の力は戻らず、冥界管理局を運営する余力が無いため独立したまま今に至る。

 この経緯から冥界管理局は天宮と全銀連両方に確立した関係がある。特に全銀連とは今でも三次元管理のために協力することも多い。

 アイアコスの言う会議とは全銀連が主催する会議で、この会議も二者の関係から開かれるものだった。
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