インスマスからの脱出~SALVATION
□夢微睡むものへ
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日曜日。通常ならば働く事のない日でも、探偵は違う。依頼が入れば休みではない。今日入ったフロスト探偵事務所もまた例外ではない。
とは言ってもその所員であるエルドリトとアリスは「疲れてそうだから」と所長命令で事務所待機中である。
ただ休めと言われて仮眠をとっていたらエルドリトの寝顔をアリスが覗き込んできたりと休めているのか疑問ではあるが。
エルドリトにとって分からないことはいくつかあるが、女性の心については並みの男性異常に分からない。なぜアリスが自分の寝顔を見ていたのか、とか。お陰で彼は起き上がるときにアリスに頭突きしてしまった。
更にエミリーとジャックがこの頃エルドリトとアリスをよく二人っきりにすることが多い。エルドリトには分からない。どうしてなのだろうか? 何か理由でもあるのだろうか? エルドリトは一応苦悩している。今も同じソファに座っているがどこか居辛い。
「エルドリトさん、疲れていらっしゃるなら…その、寝る?」
「いや、座っているだけでも疲れは取れる」
首を少しだけ傾けてエルドリトはアリスの様子をうかがう。心配そうにエルドリトを見る女性がいた。行き場のない手が胸元で握られている。
「……ありがとう」
だがこの頃エルドリトも分かってきたことがある。「すまない」よりも「大丈夫だ、ありがとう」と肯定の言葉を使った方がアリスもジャックも、そして他の皆も顔をしかめることが少ないのだ。だが今のアリスは心配そうなまなざしを止めようとしない。
確かに警察署で「落とし物の取り扱いのある部署」に行くという発想をすぐに思いつかなかったり、インスマス行きのバス停で碌に情報収集できなかったりはした。だが軍で鍛え、維持のために毎日筋力トレーニングを欠かさない自分が疲れているなんてありえない。多少疲労を感じてもそう簡単に撃沈しないだけの体力はあるつもりだ。現に今よりも疲労を感じている中…むしろ足ががくがくと震えて歩くのも精いっぱいの状況で負傷した仲間を背負って下山したこともあるというのに。一週間で睡眠時間が6時間以下でサバイバルをしたこともある。勿論その後は数日の休暇があったが…そうだ、日常生活程度で疲れてしまうなどあり得ない。
「……大丈夫だよアリスさん。俺はそんな柔じゃない」
「なら、いいんですけど…」と戸惑いながらアリスは手を下した。「でも眠たくなったら言ってくださいね?」
「だから、大丈夫だ」
「………」