after dark
□薔薇の残涙
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「犯人が被害者を攫うのは決まって土曜日。時間帯は多少のずれはありますが、夕方から夜にかけて防犯カメラのない所で確実に実行している。それから一週間後の金曜日の午前7時に絞殺し、翌日の土曜日に遺体を遺棄する。三人が同じパターンで殺害遺棄されてます。
第一被害者のマンションから駅前まで防犯カメラは駅中と駅前のカラオケ店前にしかありませんでした。カラオケ店を通過してしまえば後は人目を気にするだけでいい。繁華街の道路であっても、あの時間帯駅前にいた人たちの大半は酔っ払いか若者のグループで、周囲を気にしている人たちはほとんどいませんでした。土曜日ならもっと人も多かったでしょうし、繁華街の道路の路肩に車を止めて声をかけて被害者を車に乗せたとしても、覚えている人がいるでしょうか?」
「被害者が自ら車に乗り込んだと言いたいのか?」
「この交差点から先は住宅街で確かに人通りはなく静かです。ただ、静かすぎる。無理やり被害者を車に連れ込もうとしたら、抵抗した被害者の声が響いて却って目立ちますよ」
「背後から睡眠薬などで眠らせて車に乗せたとしたら?」
「確かにその可能性もありますが、万が一目撃された場合その場で通報される危険性があります。静かで人がいない場所だからこそ目立ちます」
「そうかもしれんが、被害者は救急救命士になりたてのまじめで大人しい性格をしていた。そんな若い女性が結婚式帰りにナンパに引っかかるか?」
「ナンパでなかったとしたら?」
「……顔見知りの犯行だと言いたいのか?」
蒲田の眉間にシワが寄る。
私は住宅街に向かって道路を渡る。蒲田が追いかけながら言った。
「第一被害者には彼氏はいないし同じ職場でも浮いた話はなかった。同僚からはまじめで一生懸命仕事に取り組む姿勢を評価されている。友人関係でトラブルもない。被害者を恨んだり痴情のもつれなんか起こる要素がない子という話だ」
「人の悪意がまじめで一生懸命生きてる人間に向かないわけではありません。ある日突然見たことがない関わりのない人間から、恨まれたり憎まれたり八つ当たりされたり、はたまた迷惑な好意を向けられる事はありますよ」
私がストーカーにあったようにね、とはさすがに言わなかった。
蒲田はむうっと口を尖らせた。
「そんな事はわかってる。だが、怨恨には思えない」
「怨恨ではないでしょう。ただ、今回の殺人事件が快楽殺人だとしたら、初めの犯行はとても重要だと思うんです。犯人を連続殺人へと駆り立てたきっかけともいえる殺人です」
蒲田は歩を止めると、暗く静観な住宅街を睨むように見渡した。
「犯人は計画的に犯行に及んでいます。第一の殺人を侵し、遺体を遺棄してから二週間の間に次の犯行への準備をして、次のターゲットを攫って一週間後に殺す。そして遺体を遺棄する……」
「このままいくと、また若い女性被害者が出ることになるな」
「だとしたら、次の二週間後の土曜日にまた女性が攫われます」
「それだけは防ぎたい。あんたが顔見知りの犯行、もしくは被害者の周辺に犯人がいると考えるのなら、第一被害者の周辺をはじめから洗いなおそう」
「付き合ってくれるんですか!」
「当たり前だろ。二ヶ月かけて捜査しても手がかりは掴めなかったんだ。新しい視点から事件を見直す必要がある。第二第三の事件は他に任せて、俺達は第一の事件を追おう」
「ありがとうございます」
蒲田は渋い顔で頷いた。