after dark

□世界一安全な場所
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事件から三ヶ月間私は入院しなければならなかった。

身体にできた怪我はほとんど擦り傷や打撲で、それらは一ヶ月もあれば痣は消えて怪我も目立たなくなったが、監禁されていたことから精神的なダメージが大きく、療養が必要だと診断された。
周囲の心配とは反対に、私は案外とけろりとしていた。

PTSDの発症の可能性があるので何度も精神科医の診察を受けていたが、今のところ自覚症状はない。不安で眠れない事もなければ興奮したり怒りっぽくなったりと気分にムラもない。

平常通り病院で過ごしている私が却って痛々しく見える人もいるようで、蒲田などは特に私を心配しては、「無理して明るく振る舞わなくていい。辛い時は泣いてもいいんだ」なんて見舞いに来る度に父親のように励ましていくから可笑しい。

幸い私が性的暴行を受けていない事は診断した医師や結城の証言からはっきりしているので、その点は皆腫れ物に触れるような扱いを受けずに済んでいる。

だから見舞いに来る捜査員達のほとんどは、早く復帰してくれるとありがたいだとか、戻ってこいと明るい調子で言ってくるから助かった。

中でも土方は毎日のように顔を出しては、事件についてどこまで進展したか教えてくれた。

結城は逮捕後、事件について洗いざらい話している。
私に聞かせた連続殺人の全貌から、祖母に育てられた経緯、そして私を妻として迎える事にした理由も。

結城は未だに私に執着があるようで、取り調べの際に必ず私が今どうしているのか聞くそうだが、二度と会う事もないだろうから私は淡々とそれを聞いている。

そんな私を土方はたまに心配そうに大丈夫かと確認してくるのだが、本当に大丈夫だから大丈夫としか答えられないので困る。

平気すぎる私はどこかおかしいのだろうか。
公安にいた頃から、動じるな平静に冷静に判断し行動しろと教え込まれてきたせいかもしれない。

だから私は多分PTSDは発症しないだろうと高をくくっていた。そんな私を医師は本気で心配してくれた。もちろん数年後に発症しないとも限らないので医師の話は真面目に聞いた。


そして短いようで長い三ヶ月の入院生活が終わった。夕方、私は土方や蒲田、捜査一課の面々に迎えられて、退院したその足で居酒屋に行き退院を祝ってもらった。

病み上がりの身体に酒が染み込む。事件の裏取りも一区切りついたところのようだ。
私が復帰する頃には、別の事件を抱える事になるかもしれない。

警察に復帰するのは一週間後となるが、その間少しでも調子を戻すために訓練から始めなければいけない。だから現場復帰はまだ先になる。


久しぶりの酒で気持ちが浮ついていた。気分よく皆と別れ、土方が寮までタクシーで送ってくれた。



「今日はありがとうございました」

「少しふらついてる。部屋まで送りますよ」

「大丈夫ですよ」

「だけど、またあんな事が起きたらと思うと心配だ。一人で行かせたくない」


真剣な眼差しに頷くしかないと思った。が、


「その必要はありやせんぜ」


沖田がにょきっと土方の背後から首を出した。


「総悟!お前いつの間に」

「今来たんですぜ。ていうわけだ。土方お前はさっさと帰れ」

「なんだその言い草は!お前こそ帰れ!」

「だから帰りやすよ。俺のうちはこの人の隣なんで」


それを聞いた土方が目を丸くする。


「そう、なのか?」

「ええ。だから大丈夫ですよ。土方さんは安心してお帰りください。今日は本当にありがとうございました。お陰で楽しかったです」

「逆に安心できない気もしますが……わかりました。こちらこそありがとうございました。くれぐれも気をつけて」


くれぐれも気をつけて、を妙に強調して土方は沖田を一瞥するとタクシーに乗り込んだ。見送ってから沖田と一緒にエレベーターに乗った。



 
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