2008 SHORT

□不器用な愛情表現
1ページ/1ページ




毎日が仕事仕事で、最近は銀時にかまってやれていなかった。忙しさにかこつけて、どこか銀時を遠ざけていたのかもしれない。少し、うっとおしく感じていたのかもしれない。

けれども、これだけ時間が開けば自然と会いたくなるわけで、ずっと聞いてない声だとか、見ていない顔だとか、触れていない肌が恋しくなって、深夜だというのにも関わらず、万事屋へと出かけた。

神楽ちゃんが寝ているかもしれないからとそっと戸に手をかけると、扉は無用心にも小さな音を立ててそろそろと開いた。本当に、無用心だ。こんな真夜中に、鍵もかけずにいるだなんて。

そろりそろりと足音を忍ばせて部屋へと向かえば、扉の隙間から部屋の明かりが洩れているのが目に入ってきた。
どうやらまだ起きているようだ。

少し安心して扉を開いて中へと入ると、銀時はソファに寝転がってジャンプを読んでいた。つけっぱなしのテレビは砂嵐になって、ザーザーと音を立てている。にも関わらず、銀時はテレビを消す様子もなく、ただひたすらジャンプに視線を落としている。


「テレビ消したら?」


そう言って部屋の中へと入り込めば、銀時はじろりと私の方へと視線をやった。まるで睨んでいるようだ。いや、睨まれる覚えならたくさんある。
今の今まで散々長い時間銀時を放っておいたのだから、こうして銀時に睨まれるくらい当たり前のことだ。


「何勝手に入ってきてんだよ?」

「何それ」

「何それってこっちのセリフだっつーの。つーかあんた誰?」

「ちょっと、彼女にそのセリフはないんじゃないの」

「誰が彼女?あんたが俺の彼女なわけ?冗談よしてほしいなー」


ばさりとジャンプを床に落として、銀時は横たえていた体を起こした。ソファに背中を預けて、首だけをこちらに回して、更に睨みつけるように私を見ている銀時。その目が、私をひたすらに責めていた。


「ごめん、私が悪かった。ずっと連絡しなくってごめん。忙しくって、それで…面倒くさかった」

「面倒くさかった。はーん…面倒くさかった、ですか。そーですかあ」

「だって、銀時ってばニートで毎日暇だからちょっとうざいんだもん」

「おい、誰がニートだ、誰が」

「それに、銀時のアレ凄い激しいから疲れるし」

「おい、激しい方が気持ちいいだろうが」

「女の気持ち考えないし。いつも自分自分だし。自分が悪くっても全力で私のせいにするし」

「おい、お前一体なんなの。けなしにきたの?俺をけなして俺のガラスのハートを壊そうとしてるの?」

「とにかく、銀時が少し暑苦しかったの」


銀時は私から視線を外すと、ふんと鼻を鳴らした。それから、口を尖らせて言った。


「俺も、お前と毎日一緒にいて暑苦しかった。お前料理下手だし、やった後すぐ寝るし、痛いだのそこは違うだの注文が多いし、俺の脆い心を知ってか知らずか平気で俺を放っておくし、とにかくお前って本当にうぜー女だよ」

「銀時…ひどい」

「ひどいのはお前だ」

「うん、私ってすごいひどい」

「うん、お前反省しろよ」

「銀時も反省してよ。私の百倍反省してよ」

「どっから百なんて言葉でてきたんだ。お前は一千倍反省しろ」

「うるせー天パ黙りやがれ」

「うるせーぺチャパイお前こそ黙りやがれ」


その内私達はいつの間にか取っ組み合いの喧嘩になっていた。

ソファにもたれかかった銀時に飛び掛って、髪の毛をむしりとってやろうかと引っ掴んでひっぱると、銀時は私の手を容赦なくぎゅうぎゅうと掴んでそれを阻止しようとする。

その間お互いの足は相手にダメージを与えようと必死でじたばたと動き回っていて、ソファの上でぐちゃぐちゃになって、転がって、攻撃して、髪の毛を引っ張って、涙が出そうになって、痛いと叫んで、放っておくお前が悪い、銀時だって迎えにきてくれなかったじゃん、だってお前が来るなって言ったんだろ、電話すらしてくれなかった、男から電話なんて出来るかこのやろー、ひどいよ銀時!と、真夜中にもかかわらず、神楽ちゃんへの気遣いも忘れてとにかく言いたい放題蹴りたい放題だ。


もう何が何だか分からなくなって、気付けば私達は互いの体を抱きしめて、ぎゅうぎゅうとしがみついて、互いの首筋に唇を押し付けたり、背中を抱きしめていた。


もう、何がなんだか分からない。ぐっちゃぐちゃだ。


だけど、それでも分かるのは、お互いがお互いを求め合っていて、あれだけ離れていたというのに、まだ互いを好いているという事だ。


「ねえ、銀時」


背中に回した手で背中をさすりながら耳元で名前を呼ぶと、銀時は少しだけくすぐったそうに身をよじった。その反応が嬉しくて、さっきまでのすったもんだをしていた時の怒りなんて忘れて、なんだか嬉しくて嬉しくて、くすりと笑みが零れた。

何でだろうね。凄く凄く今、幸せな気持ちなんだ。
あれだけ離れていて、あれだけうっとおしく思っていたのに。
本当は寂しくて、構って欲しかったからなのか。だから、今傍にいられることがとても幸せなのか。

何がなんだかよく分からなかったけれど、とにかくこれだけは言っておこう。



「玄関の鍵、私が入ってこれるようにしてくれて、ありがとう」



銀時のそういう、遠まわしで不器用な愛情表現が、とっても好きですよ。


テレビの砂嵐と、神楽ちゃんのうるせーぞ!という怒声に混じって、銀時の小さな小さな声が耳をかすめた。



「俺も、」








リクエストで、つんでれ坂田でした。つんでれになりきれていなくて申し訳ないです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]