2008 SHORT

□バースデイ
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人の誕生日だということにかこつけて酒をあおる隊士は嫌いじゃない。その中に自分も混ざっているからということはもちろんあるが、とにかく俺は土方副長に逆らう事が出来る立場ではない。

真撰組の密偵だからということもあるが、表面ではクールを装っていても実は優しいところだとか、まあ他にも色々。そういう中々可愛げのある副長のことがそれなりに好きである。

もちろんそれは恋愛感情とは違うから誤解しないで欲しい。


「おい、お前あっちで飲まねーのか?」

「ああ…自分はここでいいですよ。騒がしいのはまあ、嫌いじゃないですけど、今夜は暖かくて風が気持ちいいですし」


縁側に腰掛けて月を仰ぐ俺に、土方さんはゆっくりと頷いて静かに俺の隣に腰掛ける。無言でタバコを取り出してライターを探る副長を制して、俺は自分のライターで火を灯してやる。


「悪ィな」


遠くでどんちゃん騒ぎをする隊士達の声にかき消されればいいと思いながら、俺は静かに祝いの言葉を発した。


「副長、誕生日おめでとうございます。誕生日プレゼントは特にないですが」

「そんなもんはなから期待してねーよ」


聞き逃さなかった副長はふっと笑って月を仰いだ。


「お前にはいつも嫌な仕事ばかりさせちまってるからな。こっちが礼を言わなくちゃいけねーくらいだ」


無言で笑った俺を見て、副長は口からぽっかりとドーナツ型の煙を吐き出した。


「副長、しばしの休息、楽しんでください。男ばかりでむさ苦しいですが」

「ま、そういうの、嫌いじゃねーけどな」


そう言って、タバコを灰皿に押し付けてから、持ってきたお猪口に口を付けた副長を見て、俺ははっとしてからわざとのんびりと言った。


「それにさっき沖田さんがタバスコ入れてましたよ」



むせる副長を見ながら、沖田さんがにやにやと笑う。裸で踊る近藤さんがトシどうした?なんてとぼけた事を言う。山崎は…あれ?あ、パシられているんだっけ。


とにかく、俺はこんなくだらない真選組が、嫌いじゃない。むしろ…






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