2008 SHORT

□翻弄される
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例え血が繋がっていない義理の弟だとしても、私たちは家族だ。
恋をした相手が弟だなんて、洒落にならない。

もし、姉である私が、この気持ちを弟に伝えたら、一体どうなるのでしょう。




休日、自室にこもった私は、机の上に置いてあるピアスを手にとって、ため息を吐き出した。


先日弟から頂いたピアスは、私にはもったいないくらい綺麗なもので、あれから一度もつけていない。というのは、仕事中にピアスをつけるのは禁止されているから、つけたくてもつける事が出来なかったのだ。

というわけで、ピアスをもらってから初めての休日を迎えた私は、今日こそはこのピアスをつけようと決めていた。

しかし、いざピアスをつけようとすると、なぜか躊躇してしまう。

理由は簡単。これをつけて弟の前に現れた時の、弟の反応が怖いのだ。
また、あの可愛い顔から毒を吐かれたりしたら、私のガラスのハートは粉々になってしまいそうだ。

そんな事を一々想像して一人でショックを受けている私は相当なバカだと思う。


そんな自分を叱咤して鏡を覗き込むと、意を決してピアスをつけようとした。


その時、タイミングがいいのか悪いのか、ノックもなく、いきなり部屋の扉が全開になった。

慌てて振り返ると、そこから一つも遠慮した素振りも見せずに、堂々と弟が現れた。


「姉さん、お父さんと母さんが呼んでやすぜ」


ずかずかと了承も得ずに部屋に入ってきた弟は、私の所までやって来ると、机の上に置いてあるピアスに目を止めた。それから、私の顔を見やってから、ニヤリと不敵に笑う。

そんな弟の笑顔に、不覚にもドキリとしてしまったが、すぐに嫌な予感が過った。
この顔は…毒を吐く前にする顔だ。危険を察知した私は、冷や汗をかきながら、なんとか笑みを返す。


「それ、つけるんですかい?」

「う…うん…」

「上手くつけれねーみたいなんで、俺がつけてあげやすぜ」

「えっ?そんな、いいよ」

「いいから、黙って大人しくしてなせェ」


強引に私の手からピアスを一つ奪った弟が、身を屈めて私の耳たぶに触れた。
その瞬間、ひやりとした少し冷たい弟の体温が指先から伝わってきて、ドキリとしてしまう。

顔が赤くなっていないかと、机の上に置かれた鏡に目をやった時、耳たぶを掴んだ弟の手が力強く引っ張られた。それによって、私の耳たぶはありえない長さに伸びる。


「い、イダダダダ!ちょっと!痛い!離して!」


悲痛の声を上げる私をしばらく眺めていた弟は、机を叩き出した私を見て、ようやく伸びた耳たぶから手をと離した。そして、鏡越しに私に黒い笑みを投げてきた。


「すいやせん。穴が見えなくってねィ」


絶対わざとだと思いつつ、涙目で弟を睨み付けると、弟は再び耳たぶにそっと触れてきた。
今度は、さっきとは違って引っ張る事もせずに、優しく触れている。

鏡越しに弟の顔を伺うと、弟は真剣な表情でピアスを耳たぶの穴に通している。
その表情にドキドキしながら見守っていると、弟はピアスを通し終えて、顔を上げた。


「さ、そっちも」


今度は机に置かれたピアスを取った。そして、弟は私を自分の方に向かせた。すると、座った私と弟は向き合う形になった。

ピアスを通すためだと分かっていても、弟と正面から向き合っていると思うと、緊張してしまう。


そんな私の気持ちなど知らない弟は、反対側の耳たぶに手を添えて、ゆっくりと背中を丸めた。

私の耳を覗きこむように、近付いてくる弟の顔。
すぐ斜め横に弟の顔があって、その手が私に触れている。そう思うと、耳が熱くなってしまう。

緊張している事を弟に悟られまいと、なんとか無表情を装ってはいるが、体温の上昇だけは止められない。

耳が赤くなっているかもしれない。
赤くなっているとしたら、弟は気付いただろうか?
私がこんなにもドキドキしている事に。
気付いていたとしたら、どうやって誤魔化せばいいのだろう。

悶々としていると、弟がカラリとした声を上げた。


「できやしたぜ」


ピアスを通し終えた弟が、私の耳たぶから手を離した。ゆっくりと背筋を伸ばして私から離れていって、少し安心するのと同時に、少し残念に思ってしまう。


「見てみなせェ」


弟に言われて鏡を覗きこむと、両耳にはしっかりとピアスが通っていて、それはきらりと綺麗に光って私の耳を飾っている。


ピアスをもらっただけじゃなく、それをつけて貰えた事が嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。

私は、鏡から顔を上げると、弟に微笑んだ。


「ありがとう。すごく嬉しい」


素直に気持ちを伝えると、弟は素っ気なく、別に、と溢した。その反応がなんだか恥ずかしくて、嬉しくて、私の心は踊る。


「さ、お父さんと母さんが待ってやすぜ」

「うん、行こうか」


立ち上がって弟に笑いかけると、弟も小さく笑って返してきた。
そんな突然の笑顔に見惚れている私に、弟は言った。



「ところで姉さん、耳真っ赤ですぜ?そんなにも俺に触ってもらって興奮したんですかい?」


それを聞いて唖然とする私に、弟はにっとイタズラな笑みを浮かべて更に言った。



「ホント、姉さんは俺のことが大好きなんですねィ?あんたって、顔に出やすいですぜ」



弟は、それだけ言い残して部屋を出て行ってしまった。

一人取り残された私はというと、呆然としたまま、父が部屋まで私を呼びにくるまで、ずっとそこに突っ立ったままでいた。



…私の気持ち、バレバレじゃないか…!
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