2008 SHORT

□柔らかい波
1ページ/2ページ



家を出ると決めてから、私の行動は早かった。

次の日から早速マンション探しに、バイトの休み時間に不動産屋に足を運んだ。
マンションが決まるのも早く、二日で安くてそれなりにいい賃貸マンションを探し出した。


家が決まると同時に、早急に引越しの準備が始まる。三日で荷物を整理して、引越し業者を頼んだ。

引越しを決意して、引っ越すまでたった一週間。
あっという間だった。


家を出ると決めた時、父は私と弟の関係を知り、まだ怒りが収まらなかったのか、勝手にしろと怒鳴りつけた。
しかし、次の日になってみると、冷静になったのか、父は出て行くのに反対だと言い出した。

それでも、私はすでに家を出ると心に決めていたし、それを覆すことは絶対にしないと断固として譲らなかった。父も、それ以上は何も言わなかった。

父は恐らく、まだ未成年の弟に出て行けという事が出来ないから、私が出て行くことを見ているしか出来ないのだ。


私も、父の自分勝手さに辟易しているところがあったから、この機会に家を出るのはいいかもしれないと思っていた。

何より、父が再婚すると勝手な事を言い出した時、家を出ようかと考えたこともあった。だから、いつかは私はこの家を出る運命だったのだ。

これで踏ん切りがついた。


ただ、一つ後悔があった。


それはもちろん、弟のことだ。


弟は、私が家を出て行くと決めてから、一言も口を聞いてくれなくなった。
家にいても無視をして、私とは喋ろうとしない。

まあ、父に私と弟が恋仲だという事がばれてから、父か継母が家にいるようになったから、二人きりになることもないのだけれど。

それでも、家族が一緒にいる時でさえ、弟は私と目も合わせようとしなかった。


きっと、怒っているのだろう。私が勝手に家を出て行くと決めたから。


でも、分かって欲しかった。こうでもしなければ、きっと弟が出て行くことになりかねなかった。
それに、私は父に反対されようと、弟を好きな気持ちは諦めてしまいたくなかったから。


今でも私は、弟が好きだ。
この気持ちが、離れても消えることはないと思っている。


けれど、弟は?離れたら、私のことなんてもうどうでもいい存在になってしまうかもしれない。私のことなんて、忘れてしまうかもしれない。

それは、とても寂しくて悲しいことだった。



そして、それから父と継母ともぎくしゃくしたまま、弟と口も利かないまま、私は家を出た。



引越し先は家からそう遠くない、マンション。家よりもバイト先に近い所にあるために、今までよりもバイトには通いやすかった。

一人暮らしも、今までずっと一人で暮らしてきたようなものだったから、不便に思うことは何一つ無い。
一人で料理もできる。掃除も洗濯も苦ではない。何も、心配などない。

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ