2006〜SHORT

□遺言を棒読みで
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くたびれた着物に袖を通して、後ろでキセルをふかしている高杉に振り返る。


「ね、帯結んでくれない?」

「面倒くせー」

「誰が解いたと思ってるの?」


ちっと舌打ちをして、高杉はキセルを机の上に置いてから立ち上がる。
私が歩み寄って来た高杉に帯を渡すと、やれやれといった手付きで帯を巻き始める。


「相変わらず華奢だな」

「なんせもうすぐ死ぬからね」

「何言ってやがる?」

「言って無かったっけ?私、あと一か月も持たないんだって」

「冗談よせ」


ぐっと帯を引いて、耳元で囁く高杉。
少し苦しかったけど、それを悟られない様に私はふっと笑って見せる。


「ホントだって。だから高杉と寝てみたんだけど、どうだった?そんな気配微塵もなかったでしょ?」


ふふっと笑い続ける私に、高杉はぐっと唇を噛み締めて私を睨み付けた。

帯が一気に緩む。


「帯、」

「ホントなんだな?」

「嘘言ってどうするの?」

「からかってる訳じゃねーんだな?」

「からかいたいのは、やまやまなんだけどね」


言った瞬間、やっぱり冗談だって笑えば良かったと思ったが、もう遅い。
緩んだ帯は止まる事を知らない。ぱらぱらと私の体から離れて解けて行く。

帯が完全に私の腰から床へと滑り落ちた時、高杉の両手が私の背中に回される。


「私じゃなくて帯を締めてよ」

「何で?」

「何でって、着物着なきゃ帰れないでしょ?」

「何で死ぬ?」

「そんなのどうだっていいじゃない」


素っ気なく答えて視線を高杉から外そうとすると、ぐいっと顎を掴まれた。
そのまま高杉は無理やり私の顔を自分の方へと引き寄せた。


「答えろ…」


それでも私は答えなかった。
口を開いたら、本音を言ってしまいそうだった。
だけどこのまま答えなかったら、高杉は私を放してはくれない。

だから私は無表情で、すぐそこにある高杉の瞳を真っ直ぐに見て言った。


「私が死んだら、綺麗さっぱり私の事は忘れてよ」








遺言を棒読みで








だけど本音は、忘れないで欲しい。


それを見透かした様に、高杉は無理な話だと呟いて私の唇を塞いだ。


このまま息が止まるくらいのキスをして、今ここであなたの手で私を殺して。



 

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