2009〜SHORT

□オーバーワーク
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「お、おわった……」


長いため息と供に吐き出して机に突っ伏す。
デスクに山積みになっていた書類や資料はきれいになくなった。
やりきったという満足感と供にとてつもない疲労感。目の奥が痛いし首から肩、腰にかけてだるい。

目頭を揉んでから、誰もいないオフィスを見渡す。上司の課長代理のデスクに目を止めてから、チッと舌打ちを飛ばした。
誰もいないからしたことであって、同僚の前ではけしてこんなことは出来ない。同僚の前では私はそこそこ仕事が出来てそれなりに評判のいい、イイ人ぶっているからだ。

しかし……と、5歳年下の後輩のデスクにやり今度は頭を抱えた。
この後輩のせいでここ最近の私はそのイイ人の仮面がとれかかってきていた。

途中入社。25才独身。小柄で華奢、まだ学生にも見えるかわいい外見をした後輩が入社して半年過ぎたが、彼女は基本的に仕事があまり出来ない。
教育係でもない私がここ最近はなぜか私が彼女の仕事の手伝い、もとい尻拭いをして残業を押し付けられてと、散々な目に合っている。

彼女に注意しようものならば目をうるませ男性社員に庇われ、なぜか私が逆に「そんなに言うことないだろう。かわいそうじゃないか!」などと主に課長代理から注意されて、まるでどこぞの番組に出てくる迷惑女に巻き込まれている気分だ。そのくせ私はスカッとできないままだ。

今日もまた彼女に頼んだはずの資料作成が出来ていなかったので、五分遅刻して出勤してきた彼女に聞いてみたら、聞いてませんと驚きの返事。
怒る気にもなれずに、彼女には簡単な仕事を割り振って代わりに私が慌てて資料を仕上げる。
隣の課にぎりぎり提出してみれば嫌味を言われ頭を下げる。そのまま自分の仕事にようやく取りかかると、今度は後輩彼女の本来の教育係である二歳年上の男性主任が急な仕事を回してくる。

嫌と断れない自分の性格を恨みながら、昼飯も忘れて仕事に没頭。気づけば退社時間。いつも手伝ってくれる同僚たちはコンパや彼氏とデートやら親が入院しててなどなど用事があって、今夜は一人の残業だった。もちろん例の後輩は誰よりも早く退社していった。

本来の教育係に指導をしっかりしてほしいと何度めかわからないお願いをすると、またその話かとうんざり顔を返されて先に帰っていった。


ここまで思い返してみて気づいたのだが、ちょっと待てよ私嫌われてるんじゃね?ほんとは嫌われてるんじゃね!?

自分では人の手伝いやら教育指導を率先してやってきたつもりだし時には後輩に厳しいことも言ってきたが、常に場の空気を読んで、基本的に平和主義なので職場の空気を和ますことはしても乱したことはない。
それなりに良好な関係を築いてきたと思っていたが、これだけ仕事を押し付けられている現状は嫌われてるとしかもはや思えないレベルだ。

急に虚無感が押し寄せてきて、何でこんな馬車馬のように働いてるんだとむなしくてむなしくて仕方がない。
そのくせこの現状を慰めてもらえる旦那どころか結婚してないし彼氏もいないという……。
いやちょっと待て。彼氏じゃないけど親しい男はいたじゃないか!
友達から彼女が欲しいという保険営業マンを紹介されて、何度か夕飯を食べに行っていたのだ。ここ最近は互いの予定が合わなくてというかなんだか面倒臭くなってきて会っていなかったが。

試しに携帯を開いてみると、タイミングよく彼からのメールが。失礼ながら正直言うと別に好きでもなんでもなかったが、このむなしさを埋めるにはもう誰でもいいレベル。本当に失礼極まりない。

意気揚々とメールを開くと、転勤するからもう会えないごめんねみたいな軽い感じで手を振る絵文字が添えられていた。


「なんじゃこれ……」


これ相手も大して私に興味なかったじゃんむしろ向こうのが面倒臭くなってきてるじゃん。

脱力してもう力も入らない。
何度めかの長いため息を吐いて、のろのろと立ち上がった。
そこで己の失態に気付く。時計の針がシンデレラだったらすでに魔法解けてる時間を回っていたのだ。
どんだけ残業してた!?というかそんなことよりもなによりも!


終電!!!



 
 
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