『霞シリーズ』番外編集
□きっと変わらずに
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・・・―――「確かに馬鹿ですが、王の器です」
明瞭な声で言い切った絳攸に、鳳珠は小さく溜め息を吐いた
聞こえよがしのつもりは無かったけれど、視界が悪い分、聞くことに優れた絳攸の耳には届いただろうな・・・と思いながら、
「まさかとは思うが、お前にまで馬鹿が移ったか」
そう言うと、絳攸はそれには、軽い苦笑だけを返してきた・・・
馬鹿王だと、揶揄でも何でもなく、思う・・・
『王』たる力量に、足りていないのは考えるまでも無いことで・・・
けれど・・・
「あの王はお前に、“花”を、花菖蒲を贈ったのだったか・・・」
「はい・・・」
と応えた絳攸が今度はとても穏やかな表情(かお)で微笑った・・・
1度“花”を贈られれば、受け取った方はもちろんだが、同時に贈った王の方も、そうそう撤回はきかない
まして今回、王が贈ったのは紫の花菖蒲・・・
花言葉は、
“あなたを信頼します”
万に一つ、これを王が軽々しく撤回すれば、この先の治世において、王の発する『信頼する』という言葉自体が、重みを失うからだ・・・
それを解った上で、絳攸に、
紅家当主の養い子とはいえ正式な『血』を持たず、
それだけでなく目が見えない絳攸に、それでも、
『信頼する』と、“花”を贈ったのだとしたら・・・
なるほど、確かに、
馬鹿ではあるが、愚かな王では無いのかもしれない・・・
実務の有能さだけでなく、きちんとこの子の内面を“見て”、“花”を贈ったのだとすれば・・・
人の内面を見るための目が、円熟しているとはとてもいえないけれど、
少なくとも外聞に惑わされずに内面を見ようとする気は、あるようだな・・・
「評価は3年、待てと言ったな・・・」
はい・・・と、これにも一言のみで応えた絳攸に、
鳳珠が、話し合いの中で初めて表情を緩めたのを、絳攸は、見えなかったけれど、微笑う気配を、確かに感じた―――