短編小説

□栄光が映す陰影
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男は喧騒の酒場で賑わいから逃げる様にカウンタ―に腰かけている。
体の線は太くも細くもないが、両の腕と足は常人の者とは逸して太く鍛え上げられている。
髪は長く、襟足は首を隠し、前髪は視界を遮らない程度に切られた、やや癖のある黒髪だ。
葡萄酒の色は人によって形容の仕方は異なる。
男が見る葡萄酒の色は、間違いなく動脈を通う血の色だった。
店主が天に向けて挙げられた数十のグラスが中身を溢しながら、合わさるのを苦笑いで見つめ、男の前に立つ。

「ダンナ…その腰の物、ずいぶんの値打ちモンみてぇですが、腕といい、名のある剣士か何かで?」

男に寄り添う様に置かれた剣は、何か有れば直ぐに抜ける様に右手付近に置いてある。
今、アルバニア王国、ラジス領の大都市ルアナで彼の名を知らぬ者は、おそらくモグリか無知と罵られるのではないかとさえ思われる程有名であった。
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