短編小説

□枯渇
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店内の女達の視線もまた男を求めていた。だが男のそれと違うのは、男ではなく財布の中身にのみ興味が向いていた事だろう。
不意に女の視線が外れ、男の視線のみが残った。来客が女であった事を示していた。
来客の主、瀬田 美咲は男の視線に気付かない不利をして、バーのカウンター席に腰かけた。
そのいでたちは明らかに他の女達とは違う。
ブランド品は身に付けず、だが美に精通する衣類を身に付け、薄く塗った紅は窺える物の化粧は薄かった。
ブランドと呼べるのはバックのみで、それ以上に目を引くのは、肩の少し下まで伸びた髪だった。
他の女達の色の抜けた髪とは対照的な黒髪が圧倒的に目を引いた。
エルディアブロという名のカクテルを頼む。
『悪魔』という意味を持つカクテルは、軽い口当たりでありながら、真っ赤な血を思わせる。
黒い髪と白い肌、暗い照明も相まって、グラスに注がれたエルディアブロがより彼女を妖艶に見せた。
「一人ですか?」
一人の男が声をかけた。
一瞥をくれただけで二口目をつける。
「隣に座っても?」
既に腰かけていても、咎める事はない。美咲は半分程になったカクテルグラスの淵を指先でなぞる。
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