短編2

□月
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 今日は、一段と月が綺麗ね――
 白い息を吐きながら、彼女は言った。
 指先を息で暖めて、それでも彼女は月を見ていた。
 色を失った肌が、衣の白と混じり合う。
 私は、彼女に衣を掛けてやった。
 白い彼女に、血のように赤い衣――
 ありがとう、と彼女は微笑う。
 そしてまた、月を見上げた。
 寒いのだろう、少し震えている。
 衣一枚ではあまり変わらなかったのだろう。
 彼女はつきを見上げたまま、動かない。
 ――ねえ、霧島。
 唐突に、彼女は呼ばう。
 呼ばれた私は彼女を振り返る。
 ――ねえ、霧島。あなたは私についてくるの?
 にっこりと、私は微笑う。今更この人は何を言うのだろう。
 ――ええ、ついていきますよ。
 ――どうしても、ついてくるの?
 ――もちろんです。あなたの行く場所なら、どこまでも。
 ――そう。
 ふ、と。彼女は微笑った。花のように――
 ――ありがとう、霧島。
 ゆっくりと、彼女は手を持ち上げて。
 私は、その手を取った。
 ――私は、行くわ。
 ――私も、すぐに。
 彼女は、月を見上げて。
 ――霧島。
 ――はい。
 ――月が、綺麗ね。
 彼女は、月だけを。
 私は、彼女だけを。
 見ていた――
 長い睫毛が、ゆっくりと下がる。
 そうして、彼女、は。
 崩れ落ちた。



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