短編2

□空から降るもの
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 ――おちてくる。



 おちてくる。
 少女が言った。
 おちてくる。


 何が、と聞いても少女は黙ったまま。
 ただ、空を指差した。
 おちてくる。


 おちてくる。
 おちてくるよ、どうしよう。
 少女は泣いて、泣いて。叫んでいた。


 おちてくる。
 どうしよう、どうすればいいの?
 少女が叫んでも、誰も何をすることもできなかった。
 なぜなら、皆少女が何を指差しているかわからなかったから。


 おちてくる。
 どうしよう、みんなつぶれちゃうよ。


 少女が差した指は。
 まっすぐ、まっすぐ空を指して。


 おちてくる、おちてくるよ。
 あれが、おちてくる。


 ある時、誰かが気づいた。
 少女の差した指、その先にあるものを。



 あの子が指しているものは、月。



 大きな大きな、お月様。
 それを、少女は指差していた。


 おちてくる。
 おちてくるよ。



 きっとあの子は月という名前を知らなかったのだ。
 だから、何がと聞かれても答えられなかった。



 おちてくる。
 いやだ、こわい。
 おちてくるよ。



 大きな、大きなお月様。
 あれは空に浮かぶものだから、落ちてなんてこないのだよ。



 おちてくる、おちてくる。
 おちてくるよ。


 おちて、





 空から降るもの。
 それは、空から降ってきて。
 みんな、潰れてしまった。










 おちてくる。
 少女が、言っていた。
 おちてくる。

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