短編2

□アズバンドの王様
1ページ/1ページ




 ――ねえ、
 知っている?


 幼い頃、母に聞かされた物語。





「アズバンドの王様」





 アズバンドの王様は、
 お姫様に恋をした。

 けれど、
 アズバンドの王様は、
 お姫様を知らなかった。

 アズバンドの王様は、
 知らないお姫様に恋をした。


 見たことも聞いたこともないお姫様。
 いるのかどうかも分からないお姫様。


 アズバンドの王様。
 恋をした王様は、
 お姫様を探し出す。

 見つけ出されたお姫様。
 連れ出されたお姫様。


 絶望したお姫様は、
 青い青い真っ青な青空へ、

 トリとなって飛び出した。


 アズバンドの王様と、
 二度と会えないお姫様。

 悲しみにくれた王様は、
 お姫様を探そうと、

 赤い赤い真っ赤な空に、
 トリとなって飛び出した。


 お姫様に恋をした、
 アズバンドの王様の、

 その恋は叶うことなく。

 二人はトリとなって、
 空の向こうへ飛び立った。


 アズバンドの王様の、
 治めた土地の民衆は。

 にっこり笑って手を振った。


 王様、王様、
 アズバンドの王様!

 さよなら、王様、
 さよなら、王様!

 空の向こうで幸せに!


 アズバンドの王様は、
 二度と帰っては来なかった。





 おしまい!



(アズバンドの王様、)
(王様、王様、)
(わたしはあなたが嫌いです)

(だから、)
(王様、)
(わたしは逃げます)

(お願い、)
(お願いです、)
(たったひとつだけ)

(王様、)
(王様、)
(アズバンドの王様、)


(わたしに近付かないで!)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ