短編2
□願い
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ただひとつだけ、願うことがある。
私はずっと、絶望の中で生きてきた。
否、希望なんてものを知らなかったから、絶望しているなんてことにも気付かなかった。
私の一生は暗闇の中。
光なんてものがこの世界に存在していることすら知らなかった。
だから、それが「ふつう」だと思っていたのだ。
「ふつう」の私は全てを諦めて、世界に諦めないと、そういう選択肢があることにも気付かなかった。
願いも、叶わないと知っていたから全て捨ててきた。
夢も、見るだけ無駄だと知っていたから見なかった。
祈りも、届くことないと知っていたからしなかった。
だから、私は願いも夢も祈りもない世界で生きてきた。
全ては溶けて消えて、私の中には残らないから。
けれど。
けれどひとつだけ。
叶わないと知っていた、無駄だと知っていた、届かないと知っていたけれど。
それでも、願わずにはいられなかったのだ。
私は、私という人格全てをかけて願ったのだ。
どういう結末になろうとも、譲れないと信じた願い。
私の生まれた、生きた意味は、その願いのためにあるのだと。
どうか。
神様でも悪魔でも、精霊でも妖精でも死神でも天使でも妖怪でも小人でも巨人でも人間でも何でも良かった。
願いを叶えてくれるのなら、何だって。
自分の持っている全てを、「願い」以外の全てを奪われても構わなかった。
願いだけが、私の全てだと思ったから。
だから。
だから、どうか。
どうかお願い――
願いを、ひとつだけ。