短編2

□半身の子供
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 半身を失ったあの子は、狂ってしまった。


 あの子には、半身がいた。
 魂を同じくした、半身の子供が。


 けれど、あれはたしか半年前。
 二人で出掛けた筈のあの子たちは、一人で帰ってきた。


 もう一人はどうしたの、と聞くと。
 あの子は村外れの大木を指差して言う。


 あそこだよ。
 あの子は、あの木になったんだ。
 きっと、春になったらきれいに咲くよ――


 村人たちは言う。


 かわいそうに。
 何か事故に巻き込まれて、記憶が混乱しているのだね。
 人が木になるわけがないのだから。
 ああ、しかし。
 もう一人も無事に生きてくれていると良いのだけど。


 あの子は、毎日大木のもとへと走り呼びかける。


 今日はね、××があったんだよ。
 もうすぐ、××があるね。
 ××が、××したんだよ――


 あきもせず、毎日毎日。
 やがて――春が来た。


 大木に、つぼみができて花が咲く。


 あの子は、嬉しそうにその花を見上げていた。
 その花は、何年に一度という程に見事なものだった。


 さすがだね。
 君のおかげできれいな花が咲いたよ。
 この木は、お母さんとお父さんの木だから――


 頬ずりをして、ぼそりと呟く。


 今年は、何を埋めようかな。





 ――ああ。
 この子は、どちらだろう。


 二人の子供。
 ゆまとまゆ。
 親無きこの子らを見分けることは誰にも出来ない。
 どちらの名をも呼ぶことのなくなったこの子は。



 呼ぶべき名を無くしてしまった。

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