短編

□世界は、滅びていた。
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眠っている間に、
世界は滅びた。


――ここは、どこ?
――どこ、なの?


ああ、漸く。
漸く、目覚めた。


君は涙を流して。
私の手を、握った。


――ここは、どこ?
――君は、誰?


そう言ったら、君は。
悲しそうに微笑んで、また涙を流した。


ここは、君の家だよ。
僕は、変わってしまったから。


――嘘、嘘だわ。
――だって、だって。


ここには、何もない。
ただの、空き地。


私の眠っていた小さなカプセルと。
君と繋がれた、四角い箱があるだけの。


――ここは、どこ?
――ここは、どこなの?


君は、小さく首を振って。
箱を取り外した。


時間がない。
君は、目覚めてしまったから。


――何?
――何を、するの?


君は、戸惑う私を押さえながら。
箱を、私に取り付けた。


――何?
――これは、何なの?


生命維持装置。
これは、君のいのちを延ばすものだ。


――どうして?
――どうして、そんなもの。


必要なんだ。
今の、こね世界で生きるためには。


この世界は、変わってしまったから。
ひとは、これなしでは生きてけなくなったのだ。


君は、四角い箱を優しく撫で。
次に、私を撫でた。


君は眠っていたから。
だから、知らないんだ。


そして、君は。
呟く、その名を。


バンコウ。


その名を呼ぶ者を、私は知らない。
一人しか、知らない。


――センシ。
――センシ、なの?


君は、笑った。
少し、嬉しそうに。


――嘘、嘘だわ。
――だって、センシは。


若かった。
もっともっと、若かった。


バンコウ。
君は、眠っていたから。


時は、過ぎたのだよ。
長い長い時がね。


――どのくらい、過ぎたの?
――私はどのくらい、眠っていたの?


そうだね、ざっと。
ざっと、百年。


私は、言葉を失った。
何て、何て長い時。


ぎしっ。


妙な音がした。
機械が、軋む音。


ああ。
ぎしっ。


君が漏らす溜息と。
軋む音とが重なった。


――何?
――何の、音?


バンコウ、これは。
命が、止まる音だよ。


ぎしっ。
みしっ。


――どう、したの?
――ねえ、どうしたの?


命が、止まる。
僕は、死ぬんだ。


ぎしっ。
ぎしっ。


君は、段々と動きを鈍くしていって。
優しく、笑いながら。


ありがとう、バンコウ。
君がいてくれて、よかった。


――嫌、嫌だわ。
――嫌だわ、ねえ。


ぎしっ。
みしっ。


――嫌、嫌よ。
――ねえ、センシ。


君は、やがて。
全ての動きを止めた。


ねえ、センシ。
センシ、私はまだ生きている。


私は、恨むよ。
君を、恨む。


私を一人で生かしたことを。
恨むよ、センシ――

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