短編

□エセかぐやひめ
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 月へ行く。
 私は、月へ逝く。


―かぐやひめ―


 私の生まれは、誰も知らぬ。
 誰にも知れぬところで私は生まれ、拾われた。
 じじとばば――二人とも、もうそんな年なのだ――に拾われた私は、育ちに育ち今年で十八。
 拾われた頃の、赤子だった私はもうどこにもいない。


 そうして私は、月を見る。


 月を、見上げる。
 真円。
 満月。
「――じじ、ばば」
 呼ばう。
 二人が気配で応えた。
「じじ、ばば。――さよなら、ありがと」
「ええ、さよなら」
「さよなら、可愛い子」
 笑ったのが、分かる。
 さよなら、さよなら、さよなら。
 さよなら――
 両手を、天にのばす。
 月を、抱く。
 私は、飛び立って。
「さよなら、さよなら、さよなら地上。私は天へと、昇ってゆく――」
 ああ、けれどその前に――
「じじ、ばば」
 にっこり、と――
 わらって。
「さよなら――」
 二人は、血に染みた。
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