短編

□緋色の宮
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 緋の色と、
 白き色と、
 黒き色と、
 翠の色――





「お前――お前、名を何というの」
「――名を聞く時は、まず名乗れ。そう教わらなかったか――」
「ああ――そうね。けれど、どうだったかしら――教わったか否か――」
「そう考え込むな。単なる常識の話だ――」
「常識か――そうね。お前――名を、何というの。私は――緋宮というの」
「ひみや――」
「そう、緋色の宮。それが私の名前よ――」
「緋宮――」
「そうよ――ねえ、お前。お前、名を何というの――」
「私――私、は――」

「甜夏」

「甜夏という名を――持つ」
「てんか――甜夏」
「そう、甜夏だ――」
「甜夏――私は、お前を」

「お前を、導こう」

「導き――」
「そう、私がお前を導くの――」
「あなたが、私を――」
「そう、そうよ――おいで、導いてあげる――」

 そうして、伸ばされた手を。
 甜夏は、とった。
 導かれることを。
 甜夏は、望んだ。
 赤い、赤い。
 それは赤い世界の出来事だった。





 緋色の宮と、
 深き白。
 黒い松と、
 翠の夏。





 そこは、赤い社だった。
 緋色に塗られた場所。
 赤い、赤い。
 そこは夕焼けに染まるように――真っ赤だった。
 甜夏を導いた緋宮は――そこの、主だった。
 主――といっても、その社には四人の人しかいなかった。
 甜夏を含めて、たったの五人。
 最初は、緋宮。
 赤い社の主、甜夏を導いた者。
 二人目は、甜夏。
 三人目は、深白。
 四人目は、黒松。
 五人目は、翠夏。
 たった五人の、住人――





「みんな」
 にこりと、笑う。
「みんな、連れてきたわ」
 そう言って、甜夏は紹介される。
「甜夏というの。甜夏、私のきょうだいたち」
 そう言って、紹介する。
「深白、黒松、翠夏」
 にこりと、笑って。
「いい子たちよ」
「よろしく、甜夏」
 くすりと、笑う。
「よろしく、甜夏」
 くすりと、笑う。
「よろしく、甜夏」
 くすりと、笑う。
「よろしく、甜夏」
 最後に緋宮がそう言って、紹介は終わる。



「ゲームをやりましょう」
「何をやるの」
「トランプがある」
「それじゃあ、トランプだね」
「甜夏も――ほら」
 そう言って、渡される一組の紙束。
 甜夏はそれをきって――配る。
「何をやる――」
「ここはまず、ババ抜きでしょう」
「それより、七並べの方が――」
「大富豪をやりましょうよ」
「甜夏は、何がいい――」
 くすくすと、笑う。



「食事の時間だわ――」
「でも、何も作っていない」
「簡単なものでいいじゃない」
「何があるの」
「缶詰があるわ」
「それでいいじゃない」
「では、それで」
「甜夏、いいよね――」
 くすりくすりと、笑う。



「眠る時間ね」
「そうだね」
「もう、眠らなきゃ」
「明日は早いのかしら」
「そうね、早いわ」
「じゃあ本当に、眠らなきゃ」
「おやすみ、みんな」
「おやすみ、みんな」
「おやすみ、みんな」
「おやすみ、甜夏――」
 くすりくすくす――





 甜夏は、闇へと堕ちて。
 深く、深く眠りへと誘われる――
 やがて――
 夢は、終わり。
 目覚めの時がやってくる――





 光――
 眩しい、光。
 そして影――



「目覚めたの、甜夏――」
「目覚めたのね、甜夏」
「目覚めたんだ、甜夏」
 くすり、くすり、くす、くす、くす。





「――嗚呼!」





「もう、我慢できない!」
「ねえ、我慢しなくていいかしら」
「我慢したくない!」
「いいでしょう、ねえ」
「緋宮」
「緋宮」
「緋宮」
「いいでしょう!」



 緋宮は。
 にやり、と。
 笑った。



「深白」



 呼んだ。



「黒松」



 呼んだ。



「翠夏」



 呼んだ。



「甜夏――」



 笑った。



「緋宮!」



 期待の目。



 それに――応える。



「いいわ!」





「いただきます!」



 三つの、重なる声。









 ぱくり。

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