短編2

□君の、
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 知っているの。
 本当は、知っているの。
 君が、私を憎んでいることを。
 殺したいほど憎んでいることを、私は知っているの。



 やあ。
 君はいつも、私にそう語りかけてくれるね。
 私はとても、それが嬉しいの。
 君は知っていたかな?
 その笑顔も態度も、私に掛けてくれるすべてが嬉しかった。



 それがつくりものだって、知っていたけれど。



 それでも、嬉しかったの。
 一瞬だけど、君が私を憎んでいたことを忘れさせてくれたから。
 嬉しかったの。
 でも。
 本当は知っていたから。
 君が私を恨んでいることを。憎んでいることを。



 恨んで良い、憎んで良い。
 私はそれだけのことをしたのだから。
 君に憎まれるだけのことを、したのだから。
 でも、それでも。
 君の私に掛けるすべてが、嬉しかった。



 けれどそれはすべて過去のこと。



 もう二度と、君が私に声を掛けることも微笑むこともない。
 壊した。私が壊した。
 赤い色が、瞼の裏に描かれる。
 君は言ったね、どうして、と。
 どうして。理由なんて、簡単だ。
 私のわがまま。ただの、わがまま。
 君の笑顔を見るたびに、私に掛けるすべてを見るたびに。
 怖かった。恐れていたのだ、君を。
 私の中の恐れが膨れていくのが、自分で分かった。
 君に恨みの言葉を掛けられるのが、憎しみの声音を吐かれるのが。
 それが、とても怖くて怖くて、耐えられなかった。
 だから、私は君を壊したんだ。
 それだけの、理由。




 君を壊したのは、私がしたこと。
 だから、後悔なんてしてはいけないと知っている。
 けれど。
 心の奥底から零れ落ちるのは、君を思う言葉ばかり。
 もう一度、もう一度、もういちど。
 どうか私の最期は。
 掌を。
 後悔してはいけない、けれど。
 けれど。












 私はもう、二度と君に逢えない。

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