お題

□意味不明な5題A
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1.赤い闇

 目隠しをされる。けれど目の前は暗くならず。
 広がるのは闇。それは確かだけれど暗くは無く。
 闇は広がり。けれどその色は赤く。
 目隠しをされる前に見た色。それがこびりついて離れない。
 どうしよう。
 怖くて、体が勝手に震えてしまう。
 目の前には何も広がっては居ない。隠されたから。
 けれどまやかしの色が――赤い色がこびりついて離れない。
 偽りの闇。闇の中の幻影。
 それが私を蝕み、――どうして?消えてくれない。
 目隠しの為に広がった闇。それが幻影を広げる。
 赤い中に。入口が。嗚呼私を呼んでいる。
 行かなきゃ。私はあそこへ。あの入口の中へ。
 闇の中の、小さな入口。
 私だから見つけられた。見つけてしまったから行かなければならない。
 どうしよう。怖い。
 行きたくないけど、意識がそこへ向く。おいで、と手招きする。
 おいで。
 おいで。
 御出で。

 御出で。

 御出でなさい。

 ほら、早く――

 手を引かれる。嫌だ、と思っても何も出来ない。
 身を引くことも。声を上げることも。
 ただその入口へ意識を集中させて。連れて行かれるのを待っているだけ。
 嫌だ。
 怖い。
 行きたくない。

 連れて行かないで――

 願っても、意味は無く。それは笑う。
 笑って、ほらと。声を掛ける。
 御出で。
 御出で。
 御出でなさい。

 早く、早く。

 御出でなさい――

 嫌。嫌。連れて行かないで。お願い――
 願っても願っても。
 意識は段々と持っていかれ――
 嗚呼そのうち私は向こうへ行ってしまう。
 そう分かってしまった。
 闇の向こう。

 ――赤い、闇の向こうにね

 ふと懐かしい声が聞こえた。気がした。
 幼い頃何度も聞かされた、御伽噺のような。そんな話が急に浮かんだ。

 赤い闇の向こうにね
 私たちの暮らすこことは違う世界があるの
 そこに行っては駄目
 入口を見つけては駄目よ
 もし見つけてしまったら
 闇を追い払いなさい
 暗い闇 赤い闇
 それを追い払いなさい
 出来なければ連れて行かれてしまう
 向こうへ行っている間にね
 こちらの身体は蝕まれて
 死んでしまうの
 こっちに帰ってきても彷徨うだけの
 そういうものになってしまうの
 だから赤い闇を見つけたら
 そこに入口を見つけたら
 闇を追い払いなさい
 目を開いて
 現実を見るの
 そうすれば赤い闇は去ってくれる
 入口は消えてしまう
 だから
 目を開いて現実を見て
 そうすれば大丈夫だから――

 思い出したそれは警告。けれどもう遅い。
 その頃にはもう私の意識――

 向こうへ、連れて行かれてしまった。
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