長編
□夢中の本屋
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ユナ・ミツキは目を覚ます。
満月は、沈んでいた。
「ユナ、起きた?」
扉をノックし、女がひょっこりと顔を出した。見慣れた顔だ。ユナの母親、ハル・ミツキ。
ふと、何かが見えた。ハルの体に被さるように。ユナは恐怖に目を見開き、息を呑む。震える手で布団を握り締め、その恐怖をやり過ごした。
「どうしたの、ユナ?」
目を強く瞑り、恐怖を押し込める。それに何とか成功して、ハルを見た。
「何でもないよ、母さん」
すぐ起きるから、そう言ってハルを部屋から出るよう促す。ハルは何か不満げに、それでも部屋を出て行った。
ハルが視界から消えたのを確認してから、ユナは布団に頭を押し付ける。
どうして。
そんなことは、思わなかった。知っている――分かっている。
これが、運命なのだ。
ユナの手に入れた運命。あの、緑の本に定められた運命。コソラドから買った、運命。
ハルの体に見えたもの、あれは死だ。
定められたもの、変えられぬもの。見えるだけで、ユナには何も出来ない。
ユナに与えられた運命は、見ることだけだから。他の人に見えないものを。
見えないものを見る運命、それがユナの買った運命だと――理解した。
「――どうして」
涙が滲む。
「どうして」
布団が少し、濡れてしまう。
「どうして、見るだけなの」
強く握る指先が、痛みを訴えた。
「どうして、変えられないの」
――それは、ユナの運命ではないから。
どうしようもないことなのだと、それが痛いほどに分かって悔しかった。