Short
□キミを探す旅
2ページ/3ページ
俺には、唯一愛したヒトがいた。
彼女は、突然俺の前から姿を消した。
俺に何も言わないで──
『健宏くん、今度は何処へ行こうか』
彼女の声が、俺の頭の中で響き渡る。
『私、絶叫系はダメなの!高い所はダメッ。……でも、観覧車は好き』
矛盾していた彼女の考え。
『ふふふ。健宏くんと二人っきりだ…。あ、動かないで!怖いんだからッ』
必死に耐えて乗った観覧車。
『うぅ〜…ムードが台無し。本当にごめんね』
申し訳なさそうに謝りながら震える手が、今でも思い出せる。
『!?…エヘヘ。健宏くんの手って、あったかい』
俺が握り締めた瞬間、彼女はニコッと笑った。
『これからも、ずーっと一緒にいようね』
そう言って、約束したのに──
彼女は……理香は、俺の前からいなくなった。
「健宏、何処に行くの?そんなに大きな荷物を持って…」
母さんが、玄関で靴紐を結んでいた俺に問いかけた。
俺は振り返らずに返事をする。
「理香を探しに、ちょっと行ってくる」
「……そう。もし理香ちゃんに逢ったら、よろしく言ってね」
「あぁ。行ってくるよ、母さん」
「行ってらっしゃい。必ず帰ってくるのよ」
涙を必死に堪えているのか、鼻声になっている母さんの声を聞きながら、俺は玄関の戸を閉めた。
ごめんな、母さん。
俺は、理香を見つけるまで帰らないから。
さぁ、旅に出よう。
愛しい彼女を探す旅へ──
キミを探す旅
*fin*
あとがき→