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□恋は駆け引き 前編
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HRが終わって、あたしは十分間が待てなくて、約束の五分前に進路指導室前にいた。
今から二人っきりで話をすると思うと、心臓のドキドキが止まらない。


「――つうの」


え?今、部屋の中から奏先生の声が聞こえた?
思わず扉に耳を当てる。
誰かいるのかな……?
あ、少しだけど声が聞こえてきた。


「ったくよ、何で俺がいちいち相談事に乗らなきゃいけねぇんだ。俺は数学担当だっつうの」


……そ、う、せんせ、い?


「面倒だが、ちゃんと聞いてやらねぇと俺の性格バレちまうし。はぁ……」


これは、幻聴だよね?
あたし、こんな奏先生知らない。
奏先生は、優しくて、生徒の事を大事に思ってて……

少し開いていた扉の奥から、煙草の煙の臭いがした。


「お、もうすぐ春日が来るな。換気しねぇと」


その言葉を聞いて、あたしは思わず扉を開けていた。


「!?か、春日さんっ。早かったんですね。実は先程まで大田村先生がいらっしゃって、煙草を吸っていかれたんですよ。今、換気しますから」

「…………」


先生は、嘘を吐いている。
嘘を吐いてるのに、なんでだろう。
無実の大田村先生には悪いけど、奏先生の言葉を否定できなかった。


「それで春日さん。相談事とは?」


あたしを真向かいの椅子に腰掛けさせて、奏先生は話を促してきた。
さっきまでは、進路について適当に話をしようと思っていた。
だけど、なんだかそれでは先生はマニュアルどおりの答えしか言わない気がした。


「あ、あたし、恋をして、いるんです」

「恋、ですか」


碧、やめて。どうして言おうとするの?
これを言ったら、もう奏先生と話せなくなっちゃうかもしれないのに。
でも、言わなきゃいけない気がした。


「その人は、普通だったら手が届かない位置にいて」

「はい」

「叶わない恋だと、思ってました」

「えぇ」

「でも、その人の弱点を知っちゃって、悪いあたしが囁くんです。その弱点を使って脅せって」

「…………」


スカートをぎゅっと握る。
先生の表情は、俯くあたしからは見れない。
もしかしたら、あの表情が柔らかい仮面を取って、渋い表情かもしれない。
もしそうだとしたら、すごく貴重だよね。


「奏先生、あたしは貴方の弱点を握ってます」


顔を上げたあたしが見たのは、表情が強張っている奏先生だった。








貴方の秘密を知りました








To be continued……





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