Gift
□佐藤家の入学式
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四月上旬。
今日は待ちに待った高校の入学式です。
校門まで続く桜並木を通って、わたしはいよいよ憧れの高校生に――
「みっつるちゃーん!!」
「ッ!?」
突如背後から大きな衝撃が……!!
衝撃が来る前に聞こえた声から、大体誰なのかは想像付きますけどね。
わたしは恨めしい視線を向けるために、振り返ります。
そこには予想通り、紅い長髪をハーフアップにした見目麗しい人が背中に抱き付いていました。
恥ずかしさと背中に受けた痛みから、さっきよりもキツい視線を送ったのですが……
「さすがオレの美鶴ちゃん。怒った顔も可愛いね〜」
なんて言われたら、怒りを通り越して呆れしか出ません。
回されている腕をゆっくり剥がしながら、わたしはもう一度睨みながら言いました。
「カズ兄、痛いから後ろから突撃するの止めてって言ったよね?」
「えー。だって後ろから見たら、美鶴ちゃんの背中が、抱き付いてって言ってるよ」
「言ってません!!」
カズ兄こと、和哉お兄ちゃんはわたしの一番目のお兄ちゃんです。
綺麗な紅髪をハーフアップにしたカズ兄は傍から見たら不良っぽいのですが、まぁ我が家にはまだ不良がいるので遊び人って感じでしょうか。
前にそう本人に告げたらショックを受けてましたけど、気にしません。
そうそう、カズ兄が一番目ということは、勿論二番目もいるわけで……
「兄さん、美鶴が困ってますよ。早く離れてください」
「宗司お兄ちゃん!」
黒髪の眼鏡を掛けた、カズ兄に負けないぐらいの美形な人がわたしからカズ兄を引き離してくれました。
そう、彼こそがわたしの二番目の兄、宗司お兄ちゃんです。
宗司お兄ちゃんはカズ兄と違ってすごく真面目なので、二人は相対的なイケメンとして高校で人気者らしいです。
わたしにとっては、昔からカズ兄の激しいスキンシップから護ってくれる優しいお兄ちゃん。
頭もいいから勉強も教えてくれるし、まだ二年生なのに生徒会長までしてるらしいんです!
本当に尊敬するなぁ……。
「宗司! オレと美鶴ちゃんの愛の語り合いを邪魔すんな」
「フッ。誰と誰の愛の語り合いだって? 聞こえませんね」
「テッメェ……!!」
……ただ、カズ兄との相性は最悪です。
兄二人が口喧嘩を始めたので、わたしは二人を無視して桜並木の下を歩くことにしました。
いつものことなので、気にしなくて大丈夫です。
ただ、いつもなら二人を止めてくれる人がここにはいないので長引くかもしれませんが……入学式に参加する気のカズ兄を足止めするには丁度いいですし。
あ、でも宗司お兄ちゃんは入学式で生徒会長として挨拶とかしないといけませんよね。
仕方ない、わたしが喧嘩を――
「はいはーい。二人ともストップー!!」
止めようと思って振り返ったら、二人の喧嘩の仲裁に入っている小さな人影。
この声は、間違いなくいつも二人を止める彼のものです。
何故彼がここに……?
「お兄ちゃんたち、いい加減喧嘩止めないと、みっちゃんに置いてかれてるよ」
「ハッ!? 美鶴、俺も式に出るから一緒に行きませんか?」
「美鶴ちゃーん! 置いて行かないでー!」
色々言ってるお兄ちゃんたちよりも、わたしは彼らの喧嘩の仲裁をした人物を凝視してしまいます。
だって、彼はここにいるはずの人ではないから。
お兄ちゃんたちはこの高校の生徒だから、いてもおかしくありません。
でも彼は……
「椎ちゃん、中学生なのに何でいるの……?」
「みっちゃん、やっほー。保護者代表で来てみちゃった」
「来てみちゃったって……」
可愛らしく首を傾げたのは、紛れもなくわたしの一人目の弟、椎那です。
大きな目はクリっとしていて、肌は雪のように白く、茶色の髪はサラサラと流れています。
そして小柄な体格で華奢に見えるので、よく年上のお姉さんたちから可愛がられます。
まぁそれは見た目だけであって、実際は合気道二段の腕前を持ってます。
自分から攻撃はしませんが、攻撃されたら華麗に受け流しますよ。
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