Gift

□A way to trace with you
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マリウスがラヴィニアの家庭教師に再度なってから三ヶ月が過ぎた頃、ラヴィニアは父親である王と対立していた。
理由は至って簡単なもので、王がラヴィニアにしつこく縁談を持ちかけてくるからだ。
クラレンスとのお見合いを断ってから暫くは静かだったのだが、二ヶ月を過ぎた頃から王は妙に縁談を持ちかけるようになった。
ラヴィニアはその度に断るのだが、王は諦めずに何度も縁談を持ちかけてくる。
母である王妃がラヴィニアの本心を知っているから、王も当然ラヴィニアの気持ちが誰にあるのか知っているはずなのだが、王は何か慌てたように縁談を勧めていた。
いい加減うんざりしたラヴィニアは、現在自室に籠って王との会話をボイコット中である。
そんな親子喧嘩に巻き込まれつつあるマリウスは、寝具の上で頬を膨らませて座るラヴィニアに話し掛けた。


「ラヴィニア、いつまでそうやって拗ねてるつもりだ?」

「…………」

「拗ねてるだけじゃ、何も解決しないと思うけど?」

「……だって、お父様が私の話を全く聞こうとしないんですもの。こうするしかないんです」


一向にラヴィニアの機嫌が直る気配はない。
マリウスは小さく溜め息を吐いた。
しかし、その溜め息がラヴィニアに聞こえたため、彼女は更に機嫌を悪くした。


「マリウスはそれでいいんですの!? わ、私が誰かとお見合いをして、け、結婚しても……」

「誰もそんなこと言ってないだろ?」

「え?」


実はマリウスがそんなことを言うとは思っていなかったラヴィニアは、驚きを露わにする。
マリウスと逆方向を向いてたラヴィニアは、思わず視線をマリウスに向ける。
刹那、自分の視界が真っ青になった。
決して眼が悪くなったわけではない。
この色は、マリウスの衣服の色だ。
ラヴィニアは突然のことに大きな瞳を丸くする。
こんな風にマリウスに抱き締められたのは、あの日以来だ。
ラヴィニアは急に顔が熱を持つのを感じた。


「マリウス……?」

「俺は、もう昔の気持ちなんか持ってない」

「昔の気持ち?」

「俺が今、どんな気持ちでいるか解るか?」


マリウスの問いに、ラヴィニアは首を傾げる。
他人の気持ちなど、ラヴィニアには理解出来ない。
暫く悩んだが、ラヴィニアは観念して小さく解らないと呟いた。
するとマリウスが微笑してラヴィニアを抱き締める力を強めた。


「昔は“面倒なお守りを任された”。で、今は――」

「――ッ!?」


マリウスに耳元で囁かれ、ラヴィニアはとうとう茹蛸のように顔を真っ赤にした。
しかし、なんとか彼の気持ちに応えるべく、右手で弱々しくマリウスの服を掴み、徐に頷いた。


「あ、ありがとう、マリウス……」

「どういたしまして、ラヴィニア」

「あの、これからもずっと……」

「おい、それは俺の台詞だろ?」

「……もう、我が侭ですわね」

「ラヴィニア、これからもずっと俺と一緒にいてくれ」

「勿論ですわ」


『今は“大切な人と過ごせて嬉しいんだ”』


二人が気持ちを通わせたのは、王がとある縁談を持ち込んだ日だった。
一ヶ月前からずっと持ちかけ続けた縁談は、この時に成立したのである。




A way to trace with you
(貴方と辿る道)




「やっと縁談を認めたか……」
「あなたが素直にバートン家の三男との縁談だと仰れば、ラヴィニアと喧嘩せずに済んだのですよ?」
「うぐ……しかしだな」
「言い訳は無しですわよ? でも、これであの子も幸せになれるのですね」
「……我は常にあの子の幸せを願っているからな! 当たり前だ」
「もう、あなたは本当にラヴィニアとそっくりですわね」




*fin*




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