Short

□暗い、Cry、
1ページ/1ページ





月が出ていた。
丸々太ったそれは、電灯がない道を明るく照らす。
そして前には私と彼が歩く道。
真っ直ぐ、真っ直ぐ続いている。
その距離は長く、月によって先まで明るく照らされている。

隣を歩く彼は、時折白い息を吐きながら、首に巻いているマフラーに顔を埋めていた。
マフラーの色は紺色で、彼にしては寂しい色である気がするけれど、紺色は彼の好きな色だから仕方ない。
それに、どんな色だって彼を引き立たせるのは間違いない。
彼はそれほど素敵なのだから。

彼をじっと見ていると、私の視線に気付いたのか、彼は視線だけ此方に向けた。


「どうした?」

「……ううん。何でもない」


私がそう言うと、彼は特にそれ以上言及せずに視線を戻した。
それは少し寂しいけれど、私はこれ以上我が侭は言えない。
だって、彼の隣に歩いていること自体、私の我が侭だから。

彼は隣のクラスのムードメーカーである。
そのためクラスメイトは勿論、他の同学年の生徒、先輩や後輩からも人気がある。
彼の周りにはいつも人がいっぱいだった。
私は自分と間逆な彼を好きになっていて、いつも遠くから見ていた。
私は隣のクラスであまり話したこともないし、多分彼も知らなかっただろう。
そんな私と彼がこうして歩くきっかけを作ってくれたのは私と同じクラスの友人。
彼女は可愛くて、明るくて、同性の友人だけでなく、異性の友人も多かった。
更に先輩や後輩にも沢山の知り合いがいる。
つまり、隣を歩く彼と同じだ。
彼女と彼は同じ所に立っていて、だからこそ仲も良かった。
それが羨ましくて、いつも羨望の視線を向けていた。
そしたら彼女から話しかけてくれて、いつのまにか校内では彼女と共に行動していた。
やがて私が彼女と外で遊ぶまでの仲になると、彼女は私に彼を紹介してくれた。
楽しそうに話す二人がまた羨ましくて、表面では笑っていたけれど内面では嫌な感情がぐるぐる渦巻いていた。
そんな自分が嫌で、私の名前を呼ぶ彼女と不思議そうな視線を向けた彼を置いてその場を去った。
でも優しい彼は私を心配してくれて、私が逃げ込んだ空き教室まで捜しに来てくれた。
それまでは、悲しくて、悔しくて泣いていたけれど、嬉し涙に変わった。

そして今、私が泣き止むまで一緒にいてくれた彼と一緒に帰っている。
もっと彼と一緒にいたくて、私は『一人じゃ怖い』と嘘を吐いた。
彼は優しいから『じゃあ送ってやるよ』と言ってくれて、私は嘘を吐いたことを後悔している。
彼の優しさを利用して隣にいようだなんて、そんなのダメだ。
私は自分のエゴを押し付けることしかできなくて、本当に嫌な女。
こんな私、もう嫌いだ……!

私は歩みを止め、彼の背中を見る。
隣を歩いていたはずの私がいないことに気が付いて、彼も歩みを止める。
そしてまた、不思議そうな視線を私に向けた。
首を傾げ、白い息を吐きながら私に訊ねる。


「もしかして具合悪いのか?」


私は首を横に振って否定する。
違う、違うの。
ただ、こんなことしか出来ない自分が嫌なだけなの。


「じゃあ……」

「あのねっ」

「ん?」

「――貴方が好き……です」


貴方は悪くない。
だから、そんな申し訳なさそうな表情をしないで。
苦しそうな、悲しい表情をしないで。
私はただ――


「……ごめん」


貴方の笑顔が見たいだけなの


「ッ……う、ん」


彼が私の名を呼ぶ声を無視して、私は走り出した。

私、知ってるんだ。
彼女が貴方のことを好きで、貴方が彼女のことを好きなこと。
二人は相思相愛で、私が入る隙なんか無いんだよね。
貴方が巻いているそのマフラー、彼女が選んでくれた物だもの。
彼女と話しているときだけ、時折照れくさそうな表情をするよね。
それは彼女も同じ。
周囲は二人が恋人になるんだって疑っていない。
そんな彼を好きになったのが、間違いだったのかな――

さっきまで明るかったはずの道は、真っ暗だった。
ああ、そうか。
丸く輝いていた月が隠れてしまったのね。
まるで私の人生を見ているようで、私は月に願った。


どうか、私の行く道を照らしてください


それでも私が走る道は真っ暗で、私は泣くことしか出来なかった。




暗い、Cry、




叶わぬ恋は涙を誘うだけだった




企画サイト様久遠-ズットキミト-提出作品

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ