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□未知の邂逅
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それは、突然現れた。
とりあえず見ていないことにしたい。
俺は早々に踵を返そうとした。
返そうとした……んだが。


「おにーちゃん、いっちゃうの……?」


そう言われてしまえば、最早それを置いて帰ることなんか出来ない。
俺は心優しい男なんだ。
目の前で困っているそれを見捨てて家になんか帰れるか!
例え、それの見た目が幼少期の俺にそっくりだとしても。
例え、どう見ても俺が昔着ていたものと同じ服を着ていたとしても。
そう、目の前のそれが六歳の俺であってもだ……!!


「おにーちゃん、だいじょぶ?」


おいおい、俺って六歳の時こんなに舌足らずだったのか。
おふくろ、もっとちゃんと教育しとけよ!


「おーい。おにーちゃーん」


ていうか、昔の自分に「お兄ちゃん」とか言われると変な感じしかしない。
そりゃあ普通だったら言われることは無いわけで、この感想は当たり前なんだろうけど。
とりあえず、今の状況をもう少し考えさせてくれ。

まず、俺は普通に高校からのいつもの帰り道を歩いていたはずだよな。
それで、途中で「たまには近道でもするか」と思って神社の境内を通り抜けようとしたんだ。
……この時点でいつもと違うことしてるじゃねーか。
そして神社を抜けたら、目の前にコイツが現れた、と。

周囲を見渡すと、確かにいつもの街並みだが、いつもと少し違う。
右手にある家は先月改築したばかりの筈なのに古びたままだし、左手の駄菓子屋は俺が十歳になってすぐ閉店した。
それなのに未だ開店中で、しかも駄菓子屋のばーさんが元気に子どもたちの相手をしている。
もしかして、コイツが突然現れたというより、俺がコイツの前に突然現れたって感じ?
俺がアウェーなの?


「おにーちゃん、まいご?」
「ち、ちげーよッ。高二にもなって迷子になるか!」
「おにーちゃん、こーこーせーなんだ」
「……お前、本当に六歳か?」
「なんでぼくの年しってるの?」
「……マジかよ」


家に帰ったら、おふくろに叱ろう。
何でもう少し俺に言葉の教育をしなかったのかと。
って、今はそれどころじゃない。
今までまとめたことを一言で言うと、どうやら俺は十年前にタイムスリップしたらしい。
……嘘ぉぉぉぉぉ!?


「おにーちゃん、なまえは?」
「まずは自分から名乗りなさい」
「えーでも、しらない人になまえをおしえちゃいけませんっておかーさんがいってた」
「……分かった。俺の名前は――」


ん?
ちょっと待った。
今、俺が名前を言ったら、目の前の六歳の俺と同じ名前じゃねーか。
ここは偽名を言わなければ。
偽名ねぇ……急には浮かばねーな。
一体どうしたものやら……。


「おにーちゃん、なまえがないの?」
「……いや、名前はあるぞ。ただ、俺も知らない人には名前を教えちゃいけませんってお母さんに言われたからな。俺も言わない」


これは事実だ。
だって、目の前の俺がそれを証明している。
そういえば、そういうことだけは教育熱心だったよな……。
まぁお蔭で何事もなく育ったが。


「えーずるい」
「なんだよ、お前だって言ってないじゃねーか」
「じゃあいい! あ、おにーちゃん」
「な、なんだよ」
「じんじゃにはこわーいおばけがでるからきをつけてね!」


そう言い残し、六歳の俺は「ばいばーい」と元気に手を振って家に帰っていった。
……お化けって何だよ、六歳の俺。
あれ、もしかして俺のことじゃね?
十年前の世界に俺は明らかにお化けだろ。
多分、この時代のおふくろが見たら卒倒する。

俺はお化け扱いにならないよう、こっそりと神社へと引き返した。


「……あれ?」


神社へと引き返し、いつもの道に戻ると、いつもの道だった。
つまりさっきから十年後の現在だ。
俺、もしかして戻れた?
一応もう一度神社の境内を通って十年前の俺に会った道へと出る。
しかし、そこは現在の道で、右手の家は改築されてるし、左手の駄菓子屋は閉店していた。


「……帰ろう」


さっきまでのは夢だったのだろうか?
十年前の俺のことを考えながら、俺は家へと足を向けた。




未知の邂逅




「おふくろ。何でもう少しまともに喋れるようにしてくれなかったんだ!」
「はぁ? 何を言ってるのアンタは。充分喋れてるでしょ」
「“大丈夫”さえまともに発音できないのは充分に喋れてるというのか!?」
「意味が解らないよ、アンタ。頭でも打った?」





一応非日常をテーマに書いた短編です。
いい加減、登場人物に名前を付けてやれよって感じですが、考えるのが面倒なのでいつも無名(笑)
いっそのこと、登場人物を全て統一しちゃうと楽だよね(←

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