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□俺のナンバーワン
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俺こと佐藤宗司は、佐藤家の次男である。
自分で言うのもなんだが、高二にして生徒会長の座につき、成績は常に学年トップ、運動神経も悪くない、所謂文武両道という四字熟語が当てはまる。
更には父親の無駄な美形遺伝子を色濃く受け継いでいるため、小学生の頃からモテていたと思う。
これは兄さんも双子の弟も同じだから、間違いないだろう。
そのため、毎週のようにラブレターや告白を受けていた。
そして今日、もはや毎週恒例となっている告白される日がやってきた。
別に俺が決めたわけではないのだが、あまりにも人数が多いので女子たちが勝手に『佐藤宗司くんに告白できる日』というのを作ったらしい。
毎週水曜日に設定されたそれは、必ずと言っていいほど当日の朝に、放課後会えないかという手紙が一通、靴箱に入っている。
そして告白される場所は毎回同じで体育館裏。
……そこまで徹底されていると、誰かがまとめてくれているんじゃないかと思ってしまう。
まあ、これで困ったことはあまりないのでいいのだが。
寧ろ必ず一日一人で時間も場所も毎回同じだから、ありがたいかもしれない。

俺は「今日はどんな子だろうか」とか考えながら、放課後体育館裏に向かった。
因みに先週は三年生の大人しい感じの先輩だった。
自分から進んで告白するようには見えなかったから、多分、友だちに唆されて告白したパターンだろう。
今までも結構見てきたパターンなので、今更驚きはしなかった。
ただ、何だか可哀想な気がする。
自分のペースで告白さえもさせてもらえないとは……さぞツラかっただろう。
そういう子には、毎回慰めの言葉を掛けるが、逆にダメかもしれないな。
一度兄さんにこのことを言ったら「オマエ、アホじゃね?」とアホにアホ扱いされた。
……なんかムカついてきたな。
いや、落ち着け。
今から会う子には非がないんだ。
兄さんにイライラしたままその子に会ったら、八つ当たりしているようなものではないか。
それは申し訳ないから、気持ちを落ちつけよう。
一度歩みを止めて大きく深呼吸をし、再度体育館裏へと向かった。

体育館裏には、小柄な女子生徒が待っていた。
どうやら、今回は今月入学したばかりの新入生のようだ。
どうりで手紙に書いてある名前に見覚えがないと思った。
生徒会長として全生徒の名前を覚えている身としては、覚え漏れがあったのかと焦ったのだ。
……それにしても、まだ入学して一週間というのに、告白できるものだろうか。
疑問に思いつつも、彼女の前に立った。


「お待たせしてしまったようですね。すみません」

「い、いえ! 私こそ、生徒会でお忙しいのに呼び出してしまってすみません……」

「大丈夫ですよ。生徒会のメンバーにはきちんと遅れてくることを伝えてきましたし」

「は、はい……」


新入生――吉川さんは、小さく応えるとぎゅっと両手を胸の前で握り締めた。
先週の先輩のように、彼女も大人しいイメージだ。
ということは、彼女も友だちに唆されたのだろう。
一週間でこの制度の噂が新入生に広まるとは……誰か広報でもしているのか?


「あの、佐藤会長……?」

「あ、すみません。少し考えごとをしていました」

「いえ、それは構わないんですが……」


吉川さんは少し俯き加減だった顔を、徐に上げた。
長い髪に隠れていた彼女の顔は、どことなく愛しいあの子を彷彿させて――


「さ、佐藤会長。入学式で壇上に立つ会長を見たとき、私、心臓がバクバクして止まりそうでした」


あの子は今、何をしているのだろうかと考えていたら――


「一目惚れなんです……。わ、私と付き合ってください!」

「何をしてても美鶴は可愛いんでしょうね……」


とか応えていた。
え、俺、今何を言った?


「……佐藤会長、本当に妹さんがお好きなんですね」


思わず呆然としていた俺に、吉川さんはバカにするわけではなく、苦笑していた。
新入生に対して、なんて恥を晒しているんだ、俺は。
こんな俺を嘲笑わない吉川さんは、きっといい子だ。


「すみません……。その、吉川さんの雰囲気が、美鶴に似ていたので」


妹――美鶴を好きなことは、否定しない。
事実だし、入学式のときだって兄さんや弟たちと一緒にあれだけ牽制したのだ。
今更自分が美鶴のことを好きであることを隠す必要はない。
吉川さんが知っているのも頷けるから、俺は素直に詫びた。
俺の言葉に、吉川さんは驚いた表情を見せた後、微笑した。


「私、安心しました」

「? 何に安心したんですか?」

「佐藤会長が、妹さん一筋であることです」


いや、美鶴を好きであることは認めるが、別に美鶴一筋というわけではない。
今のところ彼女を作る気もないのも事実だが、だからといって美鶴を彼女にしたいわけでもない。
美鶴は俺にとって可愛い妹であるのだ。
それに、今までにも彼女がいなかったわけではない。
なのに妹一筋と言われても……。


「これからも、妹さん一筋でいてくださいね」

「え?」

「そうしたら、このままずっと彼女が出来なくて、でも妹さんは彼女に出来ないし、もしかしたら雰囲気が似ているという私が、彼女になれるかもしれないじゃないですか」


……思っていたより、吉川さんは策略家だったようだ。
しかし、この考えこそツラいものではないだろうか。
この考えでいくと、つまり吉川さんは――


「自分が美鶴の身代わりであってもいい、と言うのですか?」


俺の疑問に、吉川さんは何を言う訳でもなく、ただ笑みを浮かべるだけだった。
ただ、少し寂しそうな笑みに見えたのは、俺の勘違いだろうか?
俺がまた口を開こうとすると、吉川さんは「あの」と発言し始めた。
俺は仕方なく口を閉じ、彼女の言葉を待つ。


「別に、佐藤会長の一番になりたいわけじゃありません。妹さんが永遠に貴方の一番でいいんです。ただ、彼女の次でもいいから、私を見てほしい。それだけです」


「では、失礼します」と一言告げて、吉川さんはその場を去った。
残された俺は、ただ呆然と立ち尽くすしかできなかった。

今まで、彼女にしてほしい、好きだ、ということは何度も聞いてきた。
しかし、美鶴の次でいいから自分を見てほしいという言葉は初めてだった。
今までの子たちは、みんな美鶴のことなんて一言も言っていなかったし(美鶴の存在を知らないというパターンが多いが)、どちらかというと美鶴を邪魔者扱いする子が多かった。
そのせいで美鶴に何度も迷惑を掛けたし、いい加減妹離れしてくれと言われたこともあったが、それでも美鶴は俺にとって何よりも大切なのだ。
だからこそ、美鶴を大切にしてくれることが何よりも俺にとっては嬉しいことである。

吉川さんの言葉は、きっと今までの誰よりも俺の心に響いた気がする。
でも、それでも俺にとっては美鶴が一番で――


「すみません、吉川さん。貴方の言うように、俺にとっての一番は、やはり美鶴のようです」


見えなくなった小さな背中に告げた言葉は、風に流された。




俺のナンバーワン
(何が起きても揺らぐことのないもの)




「よっしー! 会長に告白してきた?」

「うん。してきた」

「マジか!? で、どうだった?」

「……ただのシスコンで兄バカだった」

「ぷっ! 何それー」


ゲラゲラ笑う友人は、私に佐藤会長に告白するよう仕向けた人物だ。
入学以前から佐藤会長に告白できる日が決まっていることを同中の先輩から聞いていて知っていた彼女は、入学式で彼に一目惚れした私に手紙を書くことを勧めたのだ。
どうやら友人の先輩は生徒会長ファンクラブ(本人には非公認)の幹部らしく、今日告白出来るよう上手く手紙を混ぜてくれたらしい。
そうでないと、入学してまだ一週間しか経っていない私が、沢山の順番待ちをしている先輩たちを差し置いて告白出来るわけがない。
友人も先輩も、私が佐藤会長に告白してフラれるのを面白がっている。
それは知っていたけど、敢えて告白することにした。
だって、フラれるなら早いほうがいいと思うし。
でも――


「それで、会長は何だって?」

「私の雰囲気が、美鶴ちゃんに似てるって」

「そりゃあそうだ! 同じ髪型にして、頑張って似せたもんね」

「それと、やっぱり美鶴ちゃんが一番だからすみませんって言われた」

「うわ、そこまで言うか。シスコンっぷりも半端じゃないな」

「いや、直接言われたわけじゃないけど、独り言が聞こえた」

「余計怪しいわ……。で、どうするの?」


友人はニヤニヤしながら私を見る。
彼女がニヤニヤしている理由は何となく解る。
だって、私も彼女と似たような表情をしているから。


「まだ諦めないよ! だって、上手くいきそうな気がするもん」

「それでこそよっしーだ! あたし、応援しちゃうよっ」


友人がぎゅーっと抱き付いてきた。
私はそれを受け止めながら「ありがとう」と言った。
きっと、この子がいなかったら私は佐藤会長に告白出来てなかったと思うから。
そして、まだ私にもチャンスがあるって判ることが出来なかったと思うから――


「いつか、絶対佐藤会長のナンバーワンになるねっ」

「よっしーなら出来るよ!」


大切な友人のためにも、私は佐藤会長のナンバーワンになるために努力するのだった。





需要が全くないとは思いますが、書いてみました(←
捧げ小説の中の「佐藤家の入学式」に出てくる次男、宗司お兄ちゃんのお話です。
シスコン度はそこまで大きくないですが、それでもこれぐらいの愛があります(笑)
ここで現れたよっしーこと吉川さんですが、実は美鶴ちゃんと友だちだったりそうでなかったり…(どっちだ)
シスコンな兄である宗司の心にグイグイ入って来たので、吉川さんは将来の…ゴニョゴニョ(笑)
予定は未定ですけどね!←
title by Chien11さま

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