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□伝え損ねた恋心
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結衣には、誰よりも大好きな人がいる。
産まれたときからずっと隣にいた人――所謂、幼なじみと呼ばれる人である。
幼少期は小さな体格のせいか虐められることが多かった幼なじみを、結衣はいつも護っていた。
相手が男子であろうと、幼なじみを護るためならばどんなに傷ついても構わなかった。
髪を引っ張り合い、容赦なく急所を蹴り上げていたことも高校生になった今となってはいい思い出である。
しかし、それは小学校に通っていた頃までの話で、中学に進学してからの幼なじみはメキメキと身長を伸ばし、いつも結衣を護るのだと力瘤を見せている。
いつの間にか自分よりも頭二つ分大きくなってしまった幼なじみを見上げては、自分は彼には護られているのだと嬉しくなった。
そして、自分が幼なじみを恋愛対象として好きなのだと自覚した。
護られている存在は、きっと彼にとって大切である証拠。
だから別に恋人になれなくてもいい。
色恋沙汰に疎い幼なじみに高い望みは持たない。
そう決めた結衣は、自分の気持ちを直接伝えることはなかった。

そんな幸せに浸っていたのがいけなかったのだろうか。
彼に自分以上の人間が現れないと高を括っていたのがいけなかったのだろうか。
自分の気持ちを早く言わなかったのがいけなかったのだろうか。
――きっと、どれも正解なのだ。




「結衣ちゃん。おれ、好きな人ができた」




大好きな幼なじみに、自分以上の好きな人ができてしまったのは――




伝え損ねた恋心




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