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□カレイドスコープ
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「さとし! 見て、ようやく我が部に望遠鏡が来たわよ」


部室として使われている第二理科室に来て開口一番、我が天文部の部長であるハナさんはそう叫んだ。
今まで天文部に望遠鏡がなかったのは仕方がない。
だって天文部の部員は、部長のハナさんと僕だけなのだ。
そう簡単に高い望遠鏡を学校が買ってくれるわけがない。
しかしハナさんが部長になって三年目の夏、ようやく望遠鏡を買ってもらえたのだ。
そのためにハナさんが校長を脅したとか、教頭を殴ろうとしたとか、そんなことを僕は知らない。
僕は平部員だからね。


「さとしー。見てよ、この素敵な形!」


ハナさんが買って貰ったばかりの望遠鏡をしっかりと握って頬を擦り寄せる。
ああ、指紋がベタベタ付いちゃうなぁ……。
指紋を付けるのはハナさんだけだから、すぐにバレて顧問の先生に怒られるよ、ハナさん。


「ちょっと、そんな遠くから見てないで、さとしも近くで望遠鏡見ようよ!」


理科室の中央から端にいる僕の所まで、ハナさんは全力で走って来た。
もう、そんなに全力で走ったら教室の埃が……


「うわ、前が見えない!」


ってそんなに埃あったの?
そろそろ大掃除をしないといけないみたいだね。

ハナさんは動けない僕の手を取って、僕を望遠鏡の前まで連れてきた。
ハナさん、二人で望遠鏡は覗けないよ?
でも僕と一緒に望遠鏡を覗こうと必死に頑張るハナさんが可愛くて、僕は何も言えなかった。


「ねぇ、さとし。この望遠鏡に名前、付けちゃおうか」


え、望遠鏡に名前を付けるの?
ハナさんはいつも唐突だからなぁ……。
でも、ようやく出来た三人目の仲間だからね、名前があっても良いよね。


「あたしと、さとしと、そしてこの望遠鏡……決まったよ!」


ハナさんは僕が大好きな笑顔を浮かべつつ、油性の黒マジックを何処からともなく出現させた。
……ハナさんはいつも唐突だから。


「じゃあ書くよー」


ハナさんは望遠鏡にマジックで大きく名前を書いた。
直接書いちゃうなんて、さすがハナさんだ。


「……出来た!」


華怜ドスコープ。
うわ、センス悪い……。
でも、ハナさんにしては頑張った方かな。
ハナさんの『華』と僕の『怜』、そして望遠鏡のテレスコープのスコープ(ドが何かは判らないけど)、僕たち天文部全員の名前が入ってるんだ。
しかもカレイドスコープとは万華鏡のこと。
星を見るために買った望遠鏡には良い名前だと思う。
ハナさんにしてはいいんじゃない?


「さとしー。また仲間が増えて良かったね。次はどんな仲間が増えるのかなー」


ハナさんは僕の手をギュッと握って、望遠鏡改め華怜ドスコープを見た。
ハナさんは寂しがりやだから、仲間が増えて嬉しいんだね。
僕も仲間が増えて嬉しいよ、ハナさん。


「さとし、これからも一緒に星を見ようね」


そしてまた、ハナさんはキラキラと輝いている僕が大好きな笑顔を見せたのだった。



僕の名前は『怜』と書いて、さとし。
天文部部長のハナさん――華さんの親友であり、ここ第二理科室の骨格標本である。

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