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□あきのかけことば
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古典の授業が終わって、僕は教科書を英語に取り替えていた。
言語の授業――しかも異国語の授業が並ぶのは少々気が滅入る。
頭を切り替えるのはなかなか難しいものだ。
そう考えながら溜め息を吐いていると、隣から僕を呼ぶ声がした。

「優ちゃん、あたし、掛詞を思いついちゃった!」
「それって、さっきノートに書いてたやつ?」
「そうだよ」

先生に怒られてまで何を書いていたのかと思えば、掛詞を書いていたらしい。
古典に関しては成績が下の上である梨恵から一体どんな掛詞がでてくるのか、僕は少し興味を持った。

「どんな掛詞?」
「あのね、すっごく素敵な掛詞なの。きっと優ちゃんも気に入ると思う!」

ニコニコと笑いながら、梨恵は古典のノートを両手で広げてみせた。
そこには、『秋』の文字。
秋といえば、僕がさっき答えた掛詞だ。

「梨恵、この掛詞は『飽き』だよ。さっきの僕の答え、聞いてなかった?」
「聞いてたよ。聞いてたから思いついたの」

梨恵は「Look at here!」(此処を見て!)とノートの端を指で示した。

「『I fall in love for you.』ほら、此処にも秋があるよ」

そう言った梨恵の笑顔は、凄く輝いていた。
その瞬間、僕はまさしく恋に落ちたんだ。


『私は貴方に対して恋に落ちます』


「秋は『autumn』とも書くけど、アメリカでは『fall』って書くんだよ」
「そうだね。確かに掛詞だ。英語が得意な梨恵らしい掛詞だね」
「うん!やった、優ちゃんに褒められちゃった」

頬を赤く染めた梨恵の頭を、僕は同じく頬を赤くしながら撫でた。
『あきのかけことば』が増えたなぁと思いながら――。




*fin*
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