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□恋は駆け引き 中編
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「僕の弱点とは一体なんですか?」


奏先生は知らないふりをする。
そんなことしたって、もう知っちゃったんだから!
でも、勿論あたしにそう言う勇気はなくて、アハハって笑って誤魔化した。


「冗談ですよ、先生!それにしても大田村先生ったら随分吸っていたんですね」

「大田村先生は愛煙家ですから。……それで、相談事についてですが」

「あー……あれは気にしないでください。絶対に、無理な恋なんです」

「諦めてしまうのですか?」


奏先生のことだよ、なんて言えたらどんなに楽だろうか。
貴方の本性を知っても好きなのに、どうして「好き」って言えないんだろう。


「弱点を使って脅す事には賛成できませんが、諦める必要はないと思いますよ」


先生がそんなこと言ったら、あたし、ますます言えない。
どうしてあたしは生徒で、奏先生は先生なの?


「……本当にそう思いますか?」

「はい」


ニコリと笑って、先生はあたしの頭にポンポンっと手を置いた。
その優しさが、逆につらいのに。


「春日さんは明るくていい子ですから、きっと相手もいつか振り向いてくれます」

「……じゃあ告白してもいいんですか?」

「えぇ。頑張ってください」


スカートの裾を、もう一度ぎゅっと握る。
あたしは、腹を括ることにした。
絶対、後悔はしない。
自分の気持ちを伝えることは、悪いことじゃないもん。


「奏先生」

「はい、なんですか?」

「あたしは……奏先生が好きです」


奏先生は驚いたのか瞳を丸くした。
人気があるから今まで告白されたことがありそうなのに、意外だ。
あ、そっか。あたしが生徒だからか。
もしこれが同級生だったら、そんなに驚かないんだろうなぁ。


「春日さん、もう冗談は」

「冗談なんかじゃない!」


座っていたパイプ椅子を大きな音と共に倒して、あたしは立ち上がった。
いつのまにか、頬には涙が伝っていた。


「あたしは、初めて逢ったときから奏先生が好き。大好きなの。たとえ、本当の奏先生がどんなに嫌な性格をしてても、あたしは奏先生が好きなの!」

「……嫌な性格?」

「さっき、聞いちゃったんです、奏先生の独り言。それに、この臭いだって、本当は奏先生が煙草を吸っていたんでしょう?」

「…………」

「貴方の弱点は握ってます。だから、だから……」

「俺と付き合えって?」


急に口調が変わり、更には表情まで変わった。
これが、本当の奏先生……?


「冗談じゃないぜ。マジで俺の弱点握っちゃったわけ?そして俺を脅して付き合え、とね。春日ってそんな性格だったんだ」


あたしは、頭で大きな鐘が鳴ったような錯覚に陥った。
そうだ、あたしは今、凄く嫌な性格をしている。
弱点を握って、それで人を脅して、付き合おうだなんて。


「あ、あたし、最悪ですね。奏先生より性質悪い……」


だめだ、涙が止まらないよ。
もう、これで奏先生に嫌われちゃった。
出ていかなきゃ。ここから、早く出ていかないと。


「すみ、ませんで、した。もう、帰りま、す」


ふらふらとした足取りで、ゆっくりと出口に向かう。
家に着いたら、寝よう。
明日は何事もなかったように過ごそう。


「春日、ちょっと待て」

「!?」


奏先生があたしの手首を掴んで呼びとめた。


「お前、確か帰宅部だったよな?」

「は、はい」

「今日は俺が送ってやるから、ここで待ってろ」

「え、送る?」

「今そんな顔で出て行ってもらっちゃ、俺のせいだと思われるだろうが」


いや、奏先生のせいなんですけど……


「仕事はすぐ終わらせる。いいな?」


奏先生とは早くさよならしたかったはずなのに、あたしは頷いていた。
どんな性格でも、あたしはやっぱり奏先生が好きなんだ。
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