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□卒業文集
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今日は卒業式だ。
あたしは三年生だから、勿論卒業式には参加しなければならない。
だけど、あたしは卒業式をサボって屋上にいる。
卒業式なんて面倒だし、あたしはそんなに真面目でもなかったから多分誰も気にしてないだろう。
またアイツはサボっているのかぐらいにしか思われていないに違いない。
「あー! やっぱり此処にいたっ」
そんな声と同時に、屋上の中心に座っているあたしの背中に重みを感じた。
……うるさいのが来た。
「卒業式、参加しないの?」
「……アンタも参加してないじゃん」
「僕はいいの! だって二年生だもん。でも先輩は主役でしょ?」
「誰もあたしのことなんて気にしてないから別に出なくてもいい」
「えー。皆さん気にしてたよ? 特に彼なんか卒業文集コンプ出来ねー! って叫んでたし」
彼……多分クラスの中心にいたアイツだろう。
卒業文集なんか面倒で、結局書かなかった。
だけどアイツはどうしても全員分ある文集にしたいらしく、あたしを見つけては、しつこく文集を書けと言っていた。
そんなに大事な物だろうか?
「先輩、文集ぐらい書けば良かったのに。どれだけ面倒くさがりなんですか」
相変わらず背中にくっ付く後輩は、苦笑していた。
アイツもしつこいが、コイツもしつこい。
「いい加減離れたら? 暑い」
「嘘!? 今はまだちょっと寒いぐらいじゃん。むしろ僕がいてあったかいでしょ」
「……」
「あ、無視はイヤだー!!」
更にぎゅうっと腕に力を込めて抱き締めてくる。
そろそろ本当に苦しい。
「先輩ー」
「……」
「文集、書いてね」
「何で?」
「だって僕、先輩の字が好きだから」
もう印刷も製本も終わった卒業文集を、何故今更書かないといけないのだろうか。
すると後輩は微笑して、あたしの項に顔を埋めてきた。
くすぐったい。
「後付けぐらい簡単じゃないですか。僕は先輩の同級生に、先輩がいたって証拠を残したいんだよ」
何故だろうか。
ちょっとだけ、書いてもいいかなと思ってしまった。
コイツの言葉は、影響力が凄いのだろうか……?
「あー! 何二人でいちゃついてるんだよ!?」
急に大声が聞こえたと思ったら、背中から重みが消えた。
やっと楽になった。
「何するんですか、猿山の大将」
「誰が猿山の大将だ! お前こそ俺の女にべったりくっ付きやがって……ムカつく」
「いや、あたしはアンタの女になった覚えはないんだけど」
「……」
「振られてるー!! 僕の勝ちぃ」
「いや、あたしはアンタに懐かれる覚えもない」
「えー!?」
落ち込んでいたアイツが復活して、後輩と口喧嘩を始めた。
はぁ……あたしの時間を返してほしい。
アイツは例のクラスの中心にいた奴だ。
多分、アイツも文集を書かせるためにわざわざ屋上に来たのだろう。
暇な奴らだ。
「とにかく文集書け!」
「そうだよ先輩! とにかく文集は書こうよ」
いきなり同じことを言い始めた二人に、思わず笑ってしまった。
「わ、笑った……」
「先輩が笑った!」
また騒ぎ始めたので、とりあえず無視をしよう。
構っていたら疲れるだけだ。
「ほら、紙に一言でも良いから書けよ」
「先輩、書きましょう!」
「……分かったから、それ以上近付くな」
あたしはアイツからペンと紙を受け取り、少し考えてから文字を書いた。
そして文字を見て瞳を丸くする二人を置いて、屋上から出て行った。
「は!? ま、待てよ!」
「先輩、僕を置いていかないで!」
慌てて追いかけてくる二人に、またあたしは笑った。
『また逢いましょう』
「何でお前は一人称が僕なんだよ」
「別に僕でいいじゃん。ねー先輩」
「……もう少し女らしくしたらもっとモテるのに」
「僕は先輩と一緒だったらモテなくていいもん」
「(勝手にして……)」