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□恋はジェットコースター
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俺は今日、遊園地に来ていた。
土曜日であるにも関わらず客が少ない園内を、一緒に来ていた部活のメンバーははしゃぎながら歩く。
今日遊園地に来たのは、卒業する先輩たちの送別会の一環だ。
わざわざ泊まりがけでここまで来て、尚且つフリーパスなんだから遊ばなければ損であると、クラスメイトであり部員仲間の稲森が言っていた。
そうだな、確かに高い金払ってここまで来てフリーパスとくれば遊びまくるしかないだろう。

だが、稲森は忘れている。
俺が高所恐怖症であることを――。


「いい加減さ、自分で歩いてくれないか我が友よ」

「今その手を放せば、俺はホテルへと直行するぞ。寄り道なんかせずにいい子に帰る」

「お前は馬鹿か」


そう言いながら俺の頭に手刀を喰らわせた。
なんて器用な奴だ。

実は今、俺は稲森によって引き摺られている。
稲森は、俺が背負っているリュックサックを持ち、文字通りズルズルと引き摺る。
あぁ、折角新しく買ったスニーカーの踵が削れていく……。

それにしても、一応これでも長身といわれる俺を見事に引き摺っていくものだ。
そう稲森に言えば、「お前の場合は長身痩躯だろうが」と言われた。
これは馬鹿にされたのか?
くそぅ、稲森の奴、自分がそれなりに筋肉付いてるからって自慢するなよ。
我が写真部に筋肉などいらん!


「それより何で遊園地に着いた途端に帰るなんて言うんだ。遊園地に来ることに反対はしていなかっただろ?」

「……俺は知らなかったんだ。この遊園地が、まさか絶叫マシンしかないなんて!」


有り得ないだろう!
誰が遊園地に絶叫マシンしか無いと思うんだ?
そんな奴がいたら会ってみたい。
普通遊園地といえば、カップルや家族連れが楽しむために、メリーゴーランドとかコーヒーカップとかお化け屋敷とかお化け屋敷とか(これは大事だから繰り返す)、絶叫マシン以外にもあるものだろう。
それなのにこの遊園地は一体何なんだ。
何故絶叫マシンしか無い?
責任者出せ!


「一人ブツブツ言ってるところ悪いが、着いたぞ」

「何処に……」


視線を稲森の方に向ければ、そこに聳え立つのは此処の目玉らしいジェットコースター。
あぁ、見るのもおぞましい。
即行で帰る宣言をしてしまいたい(いや、さっきからずっとしてたけど)。
稲森の野郎、こんな所に連れて来やがったのか!


「もう逃げられないぞ、我が友よ」

「それが友に言う言葉かッ」

「大丈夫、俺も一緒に乗るから」

「稲森、俺が高所恐怖症なのを忘れたのか?」

「まさか。バッチリ覚えてるぞ」

「嘘だぁぁぁぁぁ!」

「はいはい、黙って乗ろうか」


ニコリと笑った稲森の後ろに、般若が見えたのは俺の気のせいだろうか。
気のせいであってほしい。
っていうかこの状況こそ夢であってほしい。
誰か俺を起こしてくれー!


「現実逃避するなよ。そんなに嫌か」

「嫌だ」

「じゃあこの俺様が可哀想な我が友のために選択肢をやろう」

「いや、お前のせいで可哀想なことになってるんだけど」

「一つめ」

「無視かっ」


稲森は俺のリュックサックを掴んでいない左手の人差し指を立てた。
そんなことしなくていいから、早く放してくれ。


「大人しく楽しい楽しいジェットコースターに乗る」

「却下」

「じゃあお前は二つめを選ぶんだな。卒業する先輩方への生け贄という名の徹夜で麻雀をするという二つめを……」

「な、に?」

「あぁ残念だ。お前のことは一生忘れないぞ、我が友よ。じゃあ先輩にこの事を伝えないと。せんぱ」

「馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ! 俺が死んじまうだろうが!」


稲森が先輩たちを呼ぶ前に、どうにか大声を出して稲森の声を消した。
危ねー。
もし先輩たちを呼ばれていたら、確実に俺は死ぬ。
徹夜で麻雀だけは勘弁してくれ。
俺には睡眠が必要だ。


「じゃあ乗ろうか」


あぁ、結局そうなるんだ。
稲森は俺を一体どうしたいんだ。
友である俺を売ろうとするとは……まさか!


「稲森、お前もしかして先輩たちに何か弱みを握られているのか」

「はいはい、どうでもいい妄想はその辺にして、いい加減乗るぞー」

「放せぇぇぇぇぇ!」


冷酷大魔王である稲森によって、俺は人生初のジェットコースターに乗ることとなった。
しかも、よりにもよってこの遊園地の中で一番高さがあり距離もあるやつだ。
稲森、お前はジェットコースターから落ちて逝っちまえ。
俺が後で弔ってやるから。


「お前が逝け、我が友よ」

「前後の台詞が合ってねーよ!」


読心術なんぞ冷酷大魔王の稲森にとっては低級魔術だな、きっと。
だから敢えてそれにツッコミはしないぞ。


「いや、お前さっきから口に出してるし。それと、これに十回以上乗らねーと帰らせないからな」

「……もういいや」


涙を一筋流しつつ、俺は相変わらず稲森に引き摺られながら乗り場へと向かうのだった……。
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