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□恋はジェットコースター
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「だはははは! マジでウケるよお前!」
「相変わらずお笑いの塊だな!」
「この写真見てみろよー。完璧に白目剥いてるぜ、コイツ」
「やっべー、俺、涙止まんねーや」
ジェットコースター、天の川の下で、俺は蹲っていた。
原因は勿論、稲森に唆されたアレ。
結局、俺はあの時、
『――きもっすっ!』
しか言えなかったのだ。
鬼本さんの名前の部分は一気にジェットコースターが加速したせいで詰まってしまい、最後は間に合わずに「す」しか聞こえなかったらしい。
俺的にはちゃんと言ったつもりだ。
だが、稲森や下で見ていた乗り終わった先輩たちはそう言っていた。
マジで有り得ない。
最悪。
俺もう生きていけねー。
しかも最後にあったらしいカメラには、意識を飛ばし、白目を剥いて座っている俺が写っていた。
千円も掛かるのに、わざわざ写真を買う先輩たちは馬鹿だと思う。
勿論、あんなことを唆した冷酷大魔王稲森や、それを本当に実行した俺は、もっと馬鹿で阿呆だ。
「我が友よ、最高の思い出をありがとう!」
「……どういたしまして」
そんな清々しい笑顔で言われたら、どういたしましてしか言えないだろうが馬鹿野郎。
っていうか、俺の恋をどうしてくれんだこの野郎は。
思いっきり鬼本さんの前で「きもっす!」って言っちまったじゃねーか!
俺はギロリと稲森を睨む。
すると、稲森が何やら一枚の紙切れを渡してきた。
なんだ、何かお詫びに奢ってくれんのか?
「あと九回乗り終わるまで乗せてくれるよう書いておいたから、これを係員の人にちゃんと渡すんだぞ。あ、勿論あのお姉さんにだからな」
……そうだった。
稲森はそういう奴だった。
もう本当に逝っちまえよこのれーこくだいまおー!
「ほら、またお姉さんに告白するチャンスだぞ? あと九回もあるんだから、今度こそビシって決めて来い!」
ちょっとだけじーんときてしまったのは仕方ないと思う。
なんか親友に応援されてる感じがするじゃん?
稲森はさっきとは違い、今度はバシッと俺の背中を叩いた。
え、稲森は何でそこから動かねーの?
もしかして俺一人で乗って来いってこと?
「稲森、お前は乗らないのか?」
「俺はもう疲れた。先に帰るわ」
「早っ! ってか俺を置いていくなよ!」
「言っとくけど、その紙にちゃんと九回分お姉さんのサインがなかったら部屋に入れねーからな。騙せないぞ」
そ、そこまで考えているのかよ!
もうちょっとその頭を他に使え!
「俺たちは九回分見ていくぞー」
「そんで面白い写真があったら買うからなー」
「ビデオも今度から撮るぞ!」
「ちゃんと告ってこいよ!」
先輩たちが俺を茶化す……!
俺、今まさに四面楚歌?
「先輩方、我が友がちゃんとこなすかどうか、チェックよろしくお願いします。じゃあ俺は課題の写真でも撮りながら部屋に帰るから、頑張れよ、我が友」
我が友とか言いつつ俺を窮地に追い込む稲森を、冷酷卑劣大魔王と命名しよう。
そう心に決めた俺だった。