Short

□身分差
1ページ/1ページ





「隆久さま! どちらに行かれるのですか!?」
「うっせー! 俺に付いてくんなッ」

ウザイ執事共を撒いて、俺は無駄にデカい自室の窓から飛び出した。
窓が割れるとか、ここが二階とかは気にしねー!
植木の上に見事に着地した俺は、急いでそこから離れて走り出した。

「ハァ……ハァ……」

走って走って走って、俺はなんとか小さな公園に駆け込んだ。
朝早くだからか、周りに人はいない。
……と思っていたのに、すべり台の上に女がいた。
しかも、見覚えがある女。

「仁科……」
「へ!? あ、斎藤くん」

俺がいることに気付いた女──仁科は、すべり台を滑って俺の許に来た。
小柄な仁科は、必然的に俺を見上げる形になる。
この状態で見ると結構可愛い顔をしている方だと思う。
あれ、何を思ってんだ俺。
仁科は平凡だと周りは言っていたのに。


俺は世間で結構有名な斎藤財閥の一人息子で、所謂お坊っちゃんと呼ばれる部類のやつだ。
だから俺に近付く奴は、大抵親父に良くしてもらおうと思っている男共か、俺の嫁候補にしてもらおうとする女共ばかりだ。
媚びばかり売ってきやがって、正直どいつもこいつもウザイ。
同じ高校の奴らは、俺を避けるか媚びを売ってくるかのどちらかで、実際友人と呼べる奴はいない。

そんな淋しい俺の世界に、クラスメイトである仁科は珍しい存在だ。
仁科は他の奴らとは違い、俺と普通に接する。
それが少し嬉しかった。

「斎藤くんは、どうしてこんな朝早くにここに来たの?」
「……」

仁科の問いに、答えたくない。
彼女は首を傾げるが、俺は言えないでいた。
まさか執事共から逃げるために来たとは言えねー。

「あ、斎藤くん怪我してるよ」

仁科に言われて、俺は右手を見た。
ああ、今更痛みを感じてきた。
多分窓のガラスで切れたんだな。
最悪だ。

「私、絆創膏持ってるからあげる」

そう言って、仁科は絆創膏を貼ってくれた。
何故だか、胸が温かくなった。
仁科は優しいんだな……。

「仁科は、どうしてここに?」
「私は……うーん、よく解んないんだけど、ここにいたら斎藤くんに逢える気がして」
「は?」
「私ね、斎藤くんに言いたいことがあるんだ」

仁科はふわりと笑って、俺の右手を自分の両手で握った。
やべー、ドキドキする。

「斎藤くんは、教室でいつも淋しそうな顔をしていて、最初はそれが放っておけなくて、話しかけたの。話してみたら、斎藤くんはすごくいい人で、私はもっと斎藤くんを知りたいと思った。私は斎藤くんとずっと一緒にいたい。斎藤くんの隣にいたいの。ダメかな?」

仁科の言葉は、俺を固まらせるには充分の言葉だった。
なんだよ、俺は仁科のことが好きじゃねーか。
仁科に言われて気付くって変だろ。
俺って相当鈍感だな。

「斎藤くん?」

だけど、俺は返事が出来ない。
俺が執事共から逃げた理由は、見合い話から逃げるためだ。
俺は財閥の一人息子。
将来、会社のためにも親父が決めた女と結婚しなければならない。
いくら俺が嫌がっても、親父は許さないだろう。

「……ごめんね。私の気持ち、迷惑だったよね」
「ち、違う! 俺は仁科が好きだッ」

俯く仁科に、俺ははっきりと想いを告げた。
仁科は瞳を丸くして驚いていたが、やがてまたふわりと笑った。

「嬉しい……。ありがとう、斎藤くん」
「……あのさ、仁科」
「ん? 何?」

俺は見合いのことを話した。
俺が財閥の一人息子で、親父が決めた女と結婚させられそうになっていること、全てを隠さずに話した。
仁科は静かに聞いていたが、何か決心したように俺を見た。

「私は斎藤くんのお父さんとちゃんと向き合うよ。だって私は……斎藤くんが好きだから。斎藤くんの隣にいたいから」
「仁科……」

仁科の言う通りだと思う。
俺は、今まで逃げてばかりで親父と戦おうとしなかった。
それなのに、仁科は親父と向き合うと言ってくれた。
……俺も、逃げずに親父ときちんと向き合おう。

「仁科、隣にいてくれるか?」
「うん!!」

これからは、親父から逃げない。
彼女と一緒なら、大丈夫だ。




『負けない想い』




「そうだ、これからは隆久くんって呼んでもいい?」
「お、おう。じゃあ俺も実優って呼んでいいか?」
「いいよ! ふふふ、嬉しいなぁー」
「(笑顔の実優が可愛い…)」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ