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□愛して欲しいなんていいません、せめて貴方の手で息を止めて
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「ねぇ雅之…」
「んー?」
「何時になったら筋トレ止めるの?」
あたしの幼馴染みである安藤雅之は、超が付くほどの野球バカだ。
今だって、あたしが部屋に遊びに来ているのに筋トレをしている。
一日サボったら挽回するのに三日掛かるからって、女の子ほったらかして何をしているんだ、コイツ。
あたしの問いに、雅之は腹筋五十回三セット(因みに今二セット終わった)を継続しながら答える。
「とりあえず、後は背筋五十回三セットと腕立て伏せ五十回二セット」
「……雅之の筋肉バカ」
「な!?オレは野球一筋だ!」
そこを訂正するのね。バカは訂正しないのね?
やっぱり雅之は野球バカだ。
それにしても、これだけ筋トレしているのに、雅之は野球部の中では細身だから不思議で仕方がない。
ちゃんと筋肉付いてるの?
「香那」
「何よ」
「そんなに眉間に皺を寄せると、将来取れなくな──ぐへっ」
腹筋五十回三セットを終えたばかりの雅之の鳩尾に、香那特製スペシャル踵落としを喰らわせた。
ふん。余計な事を言うからよ。
「香那っ。オレが死んだらどうするんだよ!?」
「文化部女子の踵落としで死ぬようならそれまでね」
「それが幼馴染みに言うことかよ!」
……幼馴染みか。そうだよね。あたしと雅之は幼馴染みだもんね。
急に大人しくなったあたしに、雅之は疑問を持ったのか、あたしの肩を揺らす。
「おーい、香那さーん?もしかして機嫌を損ねちゃった?」
「……か」
「え?」
「雅之のバァァァァカ!!」
雅之の手を振り払って、あたしはクッションやら何やらを雅之に投げつける。
だけど相手は野球部。簡単に避けてしまう。
それでもあたしは投げ続けた。
「バカバカバカバカバカ!」
「ちょっ…バカバカ言うなっ」
「雅之のバカ野郎!!」
そろそろ手元に物が無くなってきた。
こうなったら拳で……
パシッ!!
「……ふぇ?」
「香那…男相手に喧嘩するのか?」
雅之は、あたしの腕を掴んでいた。
しかも何故か両腕で、あたしは何も出来ない。
なんて考えていたら、何時の間にか雅之の顔が目の前にあった。
「雅之っ、顔、近い!」
「もう物を投げないって約束するか?」
「す、するから離れてよ!」
「約束したら離れようと思ったんだけどな、出来なくなった」
はい?それは一体何故…?
すると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「香那ー!!いるんだろ!?」
ドンドンと扉を叩く音と同時に聞こえてきたのは……
「お、お兄ちゃん…」
あたしの兄であり雅之の先輩でもある笹原圭太だった。
お兄ちゃんは、あたしが雅之のことが好きなのを知っているのに邪魔をする。
もう、なんで邪魔するのよ!
「香那、喋るな」
両腕を握っていた雅之の手は、何時の間にか私の口と腰に回っている(同時に身体が回転して雅之に背を向けていた)。
どうして腰に手が回るのよっ。これじゃあ雅之と身体がくっついちゃって、心臓が飛び跳ねそう!
雅之は、ドキドキなんてしないかもしれないけど、あたしは──
愛して欲しいなんていいません、せめて貴方の手で息を止めて
このまま死んでしまっても構わない。
「ふぅ。帰ったな。これで香那がオレの部屋にいるってバレたら殺される…」
「んーんー!!」
「あ、悪ィ。大丈夫か?」
「ぷはっ…(本当に死ぬかと思った)」